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慶應義塾大学SFC教授、坂井直樹さんインタビュー

誰もやったことのないことをやるには”逆”のことをする

記事作成: 田中嘉   記事編集: 田中嘉 | Innovation |2013.03.13

当たり前だが、「あたりまえ」は「あたりまえ」ではなかった。 人はイノベーション(変革)によって新しいものをつくりだし、それが次第にあたりまえとなる。例えば、今ではあたりまえとなっているiphone。ガラケーと呼ばれる携帯電話があたりまえだった時代に生まれたiphoneは、当時新しいものだった。しかし今では、ガラケーがめずらしい。時代は常に移り変わる。 商品のコンセプトをつくることを通して、世の中にイノベーションを起こし、「新しいもの」を「あたりまえ」にしてきた人がいる。コンセプター坂井直樹さんだ。彼はご自身の<原点>について、インタビューでこう答えている。 [原点] 「デザインの仕事を始めて40年近く経ちますが、その原点はどこにあるのかと考えると、やはり1960年代のヒッピーカルチャーになります。当時は世界中で、若者たちが社会を変革しようという熱気があふれていました。京都市立芸術大学の学生だった僕は、学園祭で透明ビニールとパイプでドーム状の宇宙基地のようなものを作り、そこでファッションショーをしたり、サイケデリックなディスコパーティーを企画したり、ロックフェスティバルのポスターをデザインしたりしました。  そんな時に京都大学近くの吉田山や白川辺りで見かける米国人のヒッピーたちと知り合うようになりました。サンフランシスコのヒッピー文化のど真ん中にいた彼らが京都に引っ越して来て定住していたのです。そこには米国人にしか入手できないビートルズやストーンズの音楽や詩集、ドラッグなどヒッピーカルチャーのすべてがあり、その洗礼をダイレクトに受けたのです。それで彼らのメッカを肌で体感したいと思って大学を中退。刺青(タトゥー)Tシャツのアイデアを持って、19歳で単身サンフランシスコへ巡礼の旅に出ました。」 (「ベンチャー座」 vol.028 より) 若者たちが社会を変えようとしている時代に生まれ、そのヒッピーカルチャーに影響を受けた坂井直樹さんは、これを原点として世の中にイノベーションを起こしてきた。山中俊治さんとの共同制作「O-product」というアルミ製カメラは、その後のカメラの素材の主流を黒いプラスチックから金属へ変えた。開発に関わった日産の「Be-1」という車がヒットしたときは、その後のカーデザインが丸みを帯びたものに変化していった。「自分が携わった商品を通して、社会が大きく変化していくことに面白みを感じるんです。」同氏は語る。 世の中にイノベーションを起こすには、どうすれば良いのだろうか。

コンセプター

坂井直樹(Naoki Sakai)

1947年京都市出身。66年京都市立芸術大学デザイン学科入学後、渡米。サンフランシスコでTattoo Companyを設立、TattooT-shirtを販売し大ヒットする。73年帰国後、ウォータースタジオを設立。87年日産「Be-1」を世に送りだし、フューチャーレトロブームを創出した。1988年にはこれまでのカメラの概念を覆すオリンパス「O-Product」を発表。95年、MoMAの企画展に招待出品し、その後、永久保存となる。2004年株式会社ウォーターデザインを設立。以降、数多くのプロダクトを手がける。2008年より慶應義塾大学SFC教授に就任し、デザインと通信技術やUIを研究。現在はNS_CONCEPTブランドの開発に関わる。

学生インタビュアー

田中 嘉(たなか よしみ)

日本インタビュアー協会認定インタビュアー。
1991年東京生まれ。小学1年生から日本伝統芸能「能」を始め、6年間学び宝生流仕舞課程修了。将棋初段などを取得。高校時代に、オーストラリア、イギリスケンブリッジ、ブライトンなど3度留学。高校3年時には、小学生などにコミュニケーション教育活動を行うKEAOSを設立。その後慶応義塾大学環境情報学部に入学。60以上のインタビュー経験をもつ学生インタビュアー。
@Josh_yoshimi
HP:http://yoshimi1230.wordpress.com/

坂井1

社会の反応が「作品」なんです

田中「本日は「誰もやったことのないことをやる」というテーマでインタビューさせていただけたらと思っています。よろしくおねがいします。」

坂井「テーマは何でもいいですよ? 楽しみです。よろしくお願いします。」

田中「坂井さんはこれまで、いままでにないコンセプトのプロダクトづくりを通して、「誰もやったことのないこと」をやってこられたと思います。例えば、60年代にはサンフランシスコで「Tattoo T-Shirt」を大ヒットさせ、80年代には日産「Be-1」や「PAO」をつくり、常に新しいデザインを生み出すコンセプターとしてご活躍してこられましたよね。」

坂井「はい。他にも例えばSFCの坂井研究室では、盲導犬に代わる杖 「NS_cane」を開発しています。センサーで音や色を感知し、振動することで変化や危険を知らせるものです。また、軽金属でできたデザイン性の高いEV車椅子も開発しています。」

田中「ご自身がつくるものに何か共通点はあるのですか?」

坂井「そうですね。もちろん、今日のテーマのように“誰もやったことのないこと”をしたいと思っています。そして、デザインにもいろいろありますが、僕はやっぱり「商品」をデザインしたいんです。市場をつくるものに興味があるし、究極的には、社会の反応が「作品」だと思っています。自分が携わった商品を通して、社会が大きく変化していくことに面白みを感じるんです。」

坂井2

広尾の静かな小道にあるウォーターデザインオフィス。レンガ色の建物、内装は白に統一されたマンションの一室。ふかふかでここちよいカーペットを踏みしめて小部屋に入ると、長机の一角に座った坂井直樹さんが出迎えてくれた。入ったときはまだ明るかった空が暗くなった頃に、おしゃれなオレンジの照明が灯る。あたたかな部屋でインタビューが始まった。

田中「そうなのですね。ですが、後に大きな変化を生むようなデザインというのは、時に反感をかうことは少なくないと思います。それはどのように乗り越えてこられたのですか?」

坂井「その通りです。新しい商品・コンセプトをつくるときには、企業のすべての部署に賛同してもらう必要があります。既存の考え方でビジネスをしてきた人にとって「新しいこと」というのは、面倒くさいし難しい。だから敵が多いです。説得も大変ですよね。そこで、僕は外部の「コンセプター」という立場で、会社を動かしてきました。デザイナーと名乗らないのは、社内のデザイナーと対立しないためです。意外と、外部の人間のほうが社内を動かしやすいんですよ。社長から現場までどんな立場の人とも対等に話せますから。」

田中「ただ、そもそも「誰もやったことのないことをやる」というのはどのようなことなのか、僕にはいまいちわからないんです。誰もやったことがないことをやるというのは、結局どのようなことなのでしょうか。」

誰もやったことがないことは、誰もやったことがないように見えること

坂井「例えば「キュレーション」のような感覚でしょうね。まず、日々大量の情報をリーダー(RSSなど、登録したウェブサイト上の情報を自動的に集めて表示してくれるシステム)を通してチェックします。僕の場合これは毎朝の日課になっていて、朝仕入れた情報の中から良いなと思ったものは自分のブログにメモとして残しています。キュレーションする元情報は、こういったネット上からももちろんですが、人に「質問する」ことでもインプットしていますね。よく人に聴いています。次に、そうして自分が見たり聴いたりしてきたモノ・コトを、意外性を持って組み合わせます。だから、新しいモノをつくるのは、キュレーションした既存のモノの組み合わせなんです。」

田中「新しいモノをつくるということは、キュレーションと組み合わせというような感覚なんですね。」

坂井「はい。だから厳密に言うと、「誰もやったことがないこと」というのは「誰もやったことがないように見えること」なんです。100%新しいことというのはほとんどない。すべてのものは、要素と要素が集まってできていますから、その組み合わせを変えてあげることで、新しいエクスペリエンスが生まれるんです。」

田中「なるほど。そのためには日々たくさんの情報を仕入れる「必要」がありますよね。」

坂井「そうですね。ちなみに僕はこれを「必要」だからやっているのではありません。単なる好奇心なんです。未来がどうなっていくんだろう?と純粋に気になりますし、誰かがやっていることをやりたくない欲望があるんです。」

坂井3

田中「坂井先生がすごくお若くみえるのはそういった好奇心が強いからなのでしょうね。」

坂井「ある意味子どもなのかもしれません。いずれにせよ、日々たくさんの情報を仕入れることは大切でしょうね。」

逆のことをする

田中「いま、新しいものを生み出すとはどのようなことか。そしてその感覚をお聴きしました。誰もやったことがないことをやるには、まず、日々たくさんの情報を仕入れることが大切とのことでした。では次に、どのように新しいコンセプトを生み出すのかという“考え方”をお聴きしてもよいでしょうか。」

坂井「はい。誰もやったことのないことをやるというのは、簡単にいってしまえば逆のことをすれば良いんです。例えばAKB48も、アイドル界で「逆のこと」をしたからあれだけ売れていますよね。あれはコンセプトで逆をついています。昔のアイドルというのは「ひとりの高嶺の花」だった。でもAKBは、「会いに行けるアイドル」として簡単に握手ができるし、人数も48名(もっとたくさんいます)もいて、自分の一推しを選べる。身近な存在なんですよね。秋元さんともビートたけしさんとも話したんですけれど、この逆をとるという考え方は一緒でした。人のやらないことの方が勝率は高いですから。」

田中「人間ってきっと、「アイドルは高嶺の花であるべき」とか、「車は安いべき」とか、気付かないまま脳内のあたりまえバイアスから抜け出せないでいるんですよね。そして人と一緒のことをやってしまう。だから、バイアスを自分で外して逆をとれる人が面白いものを生み出せるのでしょうね。」

坂井「逆のことをするということは、イコール、自分に働いている「バイアス」を外すことなんです。例えば日産Be-1を例とします。当時の車というのは「安くて新しい」ものをつくろいうというバイアスがかかっていました。だから、僕は「高くて古い」ものをつくった。バイアスを外して逆のことをした。それだけなんです。」

坂井4

田中「2軸のマトリクスを書いて、反対のところのコンセプトをつくってあげれば良いのですね。」

坂井「簡単にいえばそうです。ただ、僕自身はマトリクスを書いて考えている訳ではないし、ふと思いつくだけ(笑)。当時、日本には四角い車しかなかったんです。僕はそのときに丸い車をつくりたかったし、丸い車がそこら中を走っているときの風景を想像していた。だから、論理は後づけです。僕にとって論理的な説明というのは、自分が思いついたものを人に納得してもらうためにあるようなものですね。」

田中「そういう意味では、ひとくくりに「逆のことをする」といっても論理的に考えるとうまくいく人と、感覚的に入るとうまくいく人と両方あるのかもしれませんね。論理的な人はマトリクスやロジックから「新しさ」を考え、感覚的な人は思いつきから表現すると良いのかもしれません。坂井さんは後者でしょうか。」

坂井「そうですね。ただ、後者の人たちの脳内には(もちろん論理的な面が強い人たちの中にも)「誰もやったことのないことを生み出すOS(Operating System)」のようなものがあるのだと思っています。」

田中「そうだと僕も思います。普通の人が「ふと思いつく」だけで、誰もやったことのないことというのは生まれないでしょうから。坂井さんのようなユニークな育ち方から人と違うことをしたいという欲求がうまれ、そしてユニークな生き方を選択する。この一つ一つの選択の中で蓄積された価値観、考え方や視点が“OS”をつくりだし、誰もやったことのないものを生み出しているのかもしれません。」

僕は意外と素直なんですよ

田中「ところで、この生き方のユニークさに関わりますが、坂井さんってコミカルなパーソナリティをもっていますよね。複数回ご結婚されていますし。」

坂井「そうですね。でもね、実は僕はかなり「素直な人」だと思います。確かに大学を辞めてアメリカにいったり、結婚を何度もしたりという面ではユニークだとは思いますが。」

田中「素直なんですか?」

坂井「はい。3回目の結婚相手は年上の人だったのですが、その人の言うことすべて、素直にしたがっていましたからね。普通男だとプライドがあって、妻や異性の言うことに従わないじゃないですか。僕は素直だから自分を他人にあずけることもします。当時の妻にいわれてロングヘアーもばっさり切りましたし(笑)」

田中「その素直さというのが、60歳を超えても情報の吸収力や発想力を衰えさせない秘訣なのかもしれませんね。」

坂井「昨日も9時間くらい、4歳の子ども(孫)と遊んでいましたよ。」

田中「9時間もなにをされてたんですか?」

坂井「走ったり、肩車したり、遊んでいました。ははは(笑)」

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誰もやったことのないことがやりやすい時代

田中「話がそれたので改めてテーマに戻りますね(笑)」

坂井「もう一つはなしておきたいのが、今の時代の極端な変化です。何かを生み出すとき、その時代の流れを感知することも大切。例えばクリス・アンダーソンが著書『MAKERS』で「モノのロングテール」という言葉で提唱していますが、ものづくりの世界でも、時代が逆転してきています。一言でいえば、大量生産・大量消費時代の終わりでしょう。今まで生産することが難しかったニーズの小さいモノたちが、デジタル工作機械の普及によって、広く世の中に流通するようになると言われています。3Dプリンターなどのデジタル工作機械の普及といった技術の発展によるものです。こうした変化の背景には、100年に1回のターニングポイントと言われる社会変化があります。例えば、なぜPanasonicが7千億もの赤字を出すか。なぜSonnyの15兆円くらいあった資産が1兆円しかなくなっているか。資産価値と、その減少の仕方、レイオフの規模の大きさを考えると、今なにか起きているのではないかと懐疑的にみる必要があります。会社に起きている経営上の問題は「会社」の問題にとどまらず「日本社会の環境変化」の問題にもつながっていきます。そして、その変化を先読みできず既存スタイルで経営していく会社は、破綻していく可能性があるんです。」

誰もやったことのないことをやろう

田中「「モノのロングテール」の図式でいえば、「需要が低くても人気度が高いもの」というモノの生産が許容される社会になっていくと思います。そうした社会の流れを前提とすれば、誰もやったことのないことが実現しやすい社会になっていくともいえるのではないでしょうか。」

坂井「そうですね。ですが一方で、アントレプレナーシップ教育の先駆け的キャンパスである慶應SFCの学生ですら、案外、非常識なことをしないんです。卒業生の90%以上は大企業に行きますしね。」

田中「アイデアレベルで生み出すのは簡単かもしれませんが、本当に大きなモノや、生き方レベルで「誰もやったことのないことをやる」というのは、頭ではわかっていてもなかなか難しいことなのかもしれませんね。」

坂井「そう。でも、僕はそうしていないと退屈なんですよ(笑)。大学教授とデザイン会社の経営を両方しているので決して暇ではないんですけど、それでも退屈な時間が5分とか10分とかまじっていると嫌なんです。」

田中「そうですか(笑)」

坂井「だからもう、結局これは好奇心だと思うんですよね。人がやっていることをやっても面白くないじゃないですか。そういう気持ちをもっているかどうか。大学を中退し渡米した時点で、僕のユニークな人生は始まっていたんだと思います。オリジナルに生きたいしユニークに生きたいと思っている。だから、これからの誰もやったことのないことに好奇心をもつし、未来がどうなっていくかということに興味を抱いていると思います。やっぱりね、誰もやったことがないからこそ、やる価値がありますから。」

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編集後記

「当企画の主体gi人材プロジェクトにこんなことが書いてある。「もしあなたが誇りを持ってこの時代を生き残り、自由を掴みたいのであれば、まず、新しい価値を生み出す仕組みを創り出し、その仕組みにとって欠かせない人になることが重要です。見方を変えれば、IT化とグローバル化によって、新しい仕組みを創りやすい環境になり、誰もがその仕組みづくりに参加できるようになるのです。」ここにあるように、誰もやったことのないことをやる力(=新しい価値を生み出す仕組みを作る)というのは、gi人材において重要だ。「新しい仕組みを創る」というのは、政策などで社会の仕組みを変えるという意味だけではない。新しい要素(プロダクト、サービス…)を既存の仕組みに組み込むことにより、新しい流れをつくるということも「新しい仕組みを創る」ということに含まれる。つまり、誰しも自分の活動の中で<新しい仕組み>をつくる可能性を持っているのだ。今回はそのために必要な考え方や、日々すべきことを教えていただいた。ところで、コンセプターである坂井直樹さんは、よく20代とお仕事をすると言っていた。クリエイティブの適齢期は20代だからだそうだ。今の自分は、どんな分野で、何を通して<誰もやったことがないこと>ができるだろうか。社会の反応という「作品」づくりの機会は誰にでもある。そう思うと、コンセプターという肩書きは、誰しもがもちうるものではないかと感じた。

(記事作成:田中嘉   記事編集: 田中嘉 )

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