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ルイ・ヴィトンの元社長藤井清孝さんインタビュー(前編)

元ルイ・ヴィトン・ジャパン社長、ベタープレイス・ジャパン社長「君たちはどう生きるか」

記事作成: 田中嘉   記事編集: 田中嘉 | Innovation |2013.04.03

世界を変えるような「大きな構想」とは何か。構想を抱くということを感覚的に表現すると、「大自然の中にゆら立つ2トーンカラーの<炎>をもつこと」だという。上は赤い炎で、その下は海の色のような複雑で青い炎。  何か大きなことを成し遂げたいというときに、私たちはどうすれば良いのだろうか。そして、一生をかけて抱くVISIONとは、いかにして構想すれば良いのか。今回はその「構想力」の抱き方についてお聴きした。 「ですから、赤い炎のような「ワーッとただ熱い想い」があるだけではだめなんです。その下には海のような色をした静かな炎がある」と語るように、ただ熱いだけではものごとは成し遂げられない。  藤井氏は、様々な視点からこの「構想力」を説明してくれた。  「一見すると一つの炎だけれども裏には複雑な構造があるというのは日本庭園の考え方なんですよ。すごく自然に見える日本庭園は「自然にみせる」ためにたくさんの「施し」がある。」例えば盆栽をきれいな形に整えるためには季節ごとにやらなくてはいけないことが異なるし、人工的に複雑な手入れをしなくてはいけない。そういうことだろう。」 「これは「構想の炎」の下部にある青い炎も同じなんです。一見自然に見える「青い炎」なんだけど、その色には様々な考えが凝縮されている。だから、一見するとすごく美しいんです。美しいもの、シンプルなことには必ず複雑性というものが背後にあるんですよ。」  藤井氏の著書『グローバル・マインド 超一流の思考原理―日本人はなぜ正解のない問題に弱いのか』には、グローバルビジネスの経験から考えた日本人材のひ弱さが綴られている。その悪因の一つが構想力の欠如だ。  世界の中での日本の特長、そして、構想力ある人材を育む教育論まで。<構想の炎>を解き明かすロングインタビュー。時代を牽引するリーダーが抱くべき「大きな構想」とは一体何なのだろうか。

元ルイ・ヴィトン・ジャパン社長 ベタープレイス・ジャパン社長

藤井 清孝(ふじい きよたか)

1957年神戸市生まれ。81年東京大学法学部卒業。同年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。86年ハーバード大学経営大学院(MBA)卒業。同年、ファースト・ボストン投資銀行ニューヨーク本社のM&Aグループに勤務後、40歳でケイデンス・デザイン・システムズ日本法人社長就任。2000年SAPジャパン代表取締役社長就任。2006年ルイ・ヴィトン・ジャパンカンパニーCEO、LVJグループ代表取締役社長就任。2008年、現職に就任。 ベタープレイス社は2007年にベンチャー・キャピタルより2億ドルの出資を受け米国カリフォルニア州で設立された、電気自動車用充電インフラ提供ビジネスの先駆者的企業。すでに欧州、米国、オーストラリアで、同社によるインフラ構築予定が発表されている。

学生インタビュアー

田中 嘉(たなか よしみ)

日本インタビュアー協会認定インタビュアー 1991年、東京で双子として生まれる。6歳より能を始め、宝生流仕舞課程を修了。高校時代にオーストラリア、イギリスブライトン、ケンブリッジへの留学を経てKEAOSを設立。小学生を対象としたコミュニケーション教育活動を行う。その後慶應義塾大学環境情報学部に入学。翌年、本質を考える対話コミュニティCreNate設立。インターン先での取材をきっかけに、ライフワークとして行っていたインタビューを本気でやることを決意。認定インタビュアー資格を取得する。これまでに囲碁棋士、デザイナー、職人、世界的企業の社長、芸能人やホストまで60人ほどの記事を作成し発信。2012年に日本インタビュアー協会広報課長に就任し、インタビューの普及活動をしている。@Josh_yoshimi HP:http://yoshimi-tanaka.com/

リーダーたるもの、大きな構造を抱け

―いま、世界を動かすようなリーダーシップの重要性が注目されています。就職活動の面接においても、学生時代いかにリーダーシップを発揮してきたかということが判断基準のひとつとなっているようです。そのリーダーシップを発揮するために必要な力として「大きな構想を抱く」ことがあるとおもいます。そもそも、大きな構想を抱く力とは何なのでしょう。

藤井「そうですね。端的に申し上げると、大きな構想を抱くためには「本質をみる力」が大事なんです。」

―本質をみる力ですか。

藤井「はい。もう少しわかりやすく言うと「人のニーズの本質をみる力」かな。世界をふるわせるような大きな構想を抱くためには、まずはその時代の「流れ」というものを常に感じなくてはいけません。最先端テクノロジーのなしうることを想像し、地球環境の未来にも想いを馳せる。そして、その上で大事なのが本質をみる力です。これからの時代を生きる人々には一体どんなニーズ(不満なこと)があり、そのニーズの本質は何か、ということですね。」

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藤井「例えば、スティーブジョブズも人のニーズの本質をみる力に非常に優れていました。だから、彼は偉大な構想を抱き世界的リーダーとなった。彼の抱いた「構想」とは例えば「いつでもどこでも音楽をダウンロードして楽しめる世界」ですよね。今では当たり前になりつつありますが、数年前まで世界の人々はCDから音楽を聴いていました。ただ、ジョブズはずっと前からこう考えていた_「本当に音楽っていうのは、CDなどにして売るものなのだろうか?」

CDがあたりまえだったその時代に、ジョブズはその「あたりまえ」に着目したわけです。そして「人は“音楽”を聴きたいわけであってメディアはなんでもいいのでは?」と気付いた。」

―あたりまえの人の行動に疑問を抱いていたということですね。

藤井「はい。人の聴くという「行為の本質」を考えたんですよ。音楽と人間の関係はどうあるべきか。そしてダウンロードという構想を抱いたんです。つまり、人間のニーズを満たすための方法などというものは時代により変化しますから、そのニーズの本質を洞察することが前提として大事なんです。」

―なんとなくわかるのですが、本質をみるとはどういうことですか?

藤井「うーん。本質をみるというのは、「芸術家」になるということではないでしょうか。そうですね。表現者をひとり思い浮かべてください。芸術家でも音楽家でも良いので。いわゆる表現者、というのは、2通りいるんですよね。一つ目は売れることが大事という人。番組つくるのであれば視聴率が大事。本だったら部数が大事。そういう「量」を大事にする考え方です。そして、もう一つが「自分の信じていること」を大事にする考え方。そういう人はこう考えるんです。「もしかしたらこの本を買ってくれるのは0人かもしれない。でも、私はどうしても、これが言いたいんだ!」と。前者はタレントで、後者が芸術家なんですよ。」

―はい

藤井「つまりね、本質というのは「芸術家」の立ち位置から生み出されるアーティスティックなものだということです。芸術家というのはまず、自分が生み出さなくてはいけないものや表現すべきもの(=本質的なこと)をわかっています。その上でこれをやらなくてはいけないという「意志」がある。売れるからではなく、自分が本質的に大事だとおもっているというところが、ここでいうタレントとは異なります。例えばスティーブジョブズが生み出したものもヒットばかりではないでしょう。しかし、彼は「自分が正しい」と思うことをやったんです。彼はビジネスマンですがそういう意味では芸術家なんですよね。」

―タレント的な考え方は、どれだけ売れるかというマーケティング的な考え方で、芸術家的考え方は、信念を実現するイノベーション的な考え方なのでしょうか。

藤井「まあそういう言い方もできるけれども、本質っていうのはやっぱり、「どういう動機で人は何かをやるのか」ということですよね。たまたま今の時代はこういうやり方で充足しているけれども、時代が変わって技術が変わると、全然違うやり方でニーズを充足できるわけじゃないですか。

だから、大きな構想力を抱くときには「この人はなんでこんなことをやっているんだろう?」と考えることが大事です。例えば株式会社トモノカイは家庭教師派遣の会社ですから、なんで家庭教師って必要なんだろうって考えるんです。家庭教師のニーズってなんだろうって考えたときに、例えばそれは、学校で勉強についていけない生徒を救うためかもしれない。もしかしたら学校の勉強ではもの足りないから先に進みたい人のためかもしれません。

そのようにしてなぜ?と考えていき、ある時改めて「で、なんで家庭教師がいるんだろう?」って考えるんです。そして「家庭教師がなくなってしまう時代ってどんな時代だろう?」と考えていきます。このように追究していくと、だんだんと本質に近づきます。」

―わかってきました。

藤井「よかった(笑)」

―そうしたら今の時代って、人間の本質とは何かって考えるのが大事なんですかね。

藤井「あのね、そこまでやると寝られなくなっちゃうんです(笑)」

(一同笑い)

藤井「繰り返しますが、人間のニーズの本質は何かって考えれば良いんです。「なんで良い大学に行きたいの?」「なんでこれやるの?」と考える。そのようにして本質を考える癖をつけると、新しい発想が生まれてきます。」

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日本人として時代の流れをいかに捉えるか

―構想を抱くためには一つ一つの物事について「なんでそうするんだろう」と本質を考え、人間の動機までいきつくところが起点ということですね。

藤井「その通り。基本的にはそうです。ただ、ここでさらに大事なのが、抽象と具象のバランスでしょう。」

——抽象と具象のバランスですか。

藤井「はい。冒頭で言いましたが、大きな構想を抱くというときには、その根底に流れる「時代の流れ」を見失ってはだめなんです。抽象というのはその時代の流れを捉えること。例えば明治維新というのも、時代の流れを先読みしたおかげで日本の歴史が大きく動いた瞬間でしたよね。幕末の日本は、外国から開国を求められ、開国しなければ武力行使されるという、放っておくと植民地化されかねない危機的状況だったわけです。これを救ったのも時代の流れを捉えていた優秀な人がいたからです。開国するか否か、国内の意見が割れていたなか、坂本龍馬という人物が時代をみすえた行動をとりました。詳しくは割愛しますが、江戸で黒船を目のあたりにし、外国の技術の強大さを知り、時代の流れを先読みした龍馬は、犬猿の仲だった薩摩藩と長州藩を絶妙なタイミングで結びつけたんです。そのおかげで日本は開国し、外国の技術力を輸入して国益を高めることができた。植民地化される日本の危機を救ったんです。

つまり大きな構想を抱く時というのは、まず世の中の新しい潮流を想像し、その中で人間は、そして「自分は一体何をしたら良いのか」ということをわかっていなくてはならない。」

——はい。

藤井「話を戻しますが、この時代を捉える力というのは「抽象の世界」ですよね。その上で戦略という「具象」をつくるんです。幕末の例で言うと、このままでは日本は植民地化されてしまうという危機感を予見した上で構想を抱くということ。抽象と具象のバランスというのは、時代の先読みした上構想ないし戦略を抱くということなんです。だから大きな構想を抱く人というのは、もちろん現実的なものごとの動かしかたを分かる。しかしその前に、哲学的に考えがあって、世界がどう進むべきかわかっている人なんです。」

―何か一つの構想を抱くときは、その時代の大きな流れを掴んでいることが必要ということですね。ところで、いま日本の話がでましたが、「日本人」と「構想力」の関係について教えていただけますか。日本人というのは、大きな構想を生み出すことが得意ではないということをご指摘されていたと思います。なぜ日本人は、大きな構想を抱くことが苦手なのでしょうか。

藤井「日本人亜グローバルに様々なものを見聞きした経験が比較的少ないからでしょう。もちろん、全ての日本人が苦手というわけではありません。ただやはり、大きな構想を作るときは様々な物事をみてきた人の方が発想力があります。発想が斬新なんですよね。そのような意味で、日本人は経験の幅が圧倒的に狭い環境にあります。例えば外国人とぶつかり合いながら異国を理解した経験や、異業種を体験した経験などはあまりないですよね。よく「群れをなす」といいますが、日本人の特性として、一つのところにずーっととどまる力が働いてしまうんですよ。学生でいえば、大学を一年休学して世界を放浪する人も少ないでしょう?

そういう「広く世界をみる経験」が仕組みとして普及してない。社会人になっても同様だとおもいます。会社に入ってしまうと自分の会社のことしか知らないわけですよね。そうすると発想が閉じ込もりがちです。

もちろんこれは日本人が悪いということではありません。鎖国という歴史的な流れと、島国という環境が生み出した特性でしょう。19世紀後半のイギリスというのは、帝国時代に大量の植民地をもっていましたよね。世界中の国々を一国が治めるということは、根本的な構想がなくてはできないわけです。世界を統治していたイギリスは、歴史的に世界レベルでものごとを考える必要があったんです。多様な国々の法律システム、インフラ、教育をどうするかということを考えるには、大きな構想が必要だった。」

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あるべき教育とは?

―だからこそ、大きな構想を抱く力という意味での「本質を考える力」を身につける機会が必要ですよね。それはやはり「教育」の中で生み出していかなくてはいけないと思うのですが。

藤井「そう、私もそう思います。日本の教育って、簡単にいえば「正解志向」なんですよ。これを、本質志向に転換して生徒の「説得力」を磨くことが重要だと考えています。

例えば高校で日本史の授業があったとします。正解志向の授業をするか、本質志向の授業をするかで先生の問いかけ方が異なります。ちょっと想像してみましょう。本質志向の先生の問いかけ方はこうです。まず先生が「今まで日本の歴史の中で一番大きく変わったのは何だと思う?」と質問しますよね。そうすると大体の生徒は「明治維新」とか、「太平洋戦争に負けてマッカーサーが来たとき」とか言う。ちょっと変わった人は「鎌倉幕府」とか「大化の改新」とかでしょうか。で、正解志向の教育というのは、この質問に対する答えが一つなんです。特に年号とかね。正解を暗記させる教育です。

一方で、これが本質志向の授業だとしたらどうでしょう。生徒たちの回答に対して「どうして?」と先生がさらに問いかけるんですよ。そうして理由をひとりひとりに話してもらいます。最後に先生は、理由が論理的で説得力があった生徒をほめれば良いんです。

つまりね、「答え」がどうだという問題ではなくて「どれが一番説得力があるか」が問題なんです。もちろん「年号を覚える」というのも時間軸でものごとを整理するという意味では重要なんです。しかし、その事柄同士のつながりを、何も考えずにただ暗記するのでは意味がありませんよね。」

——はい。

藤井「話は戻りますが、そもそもなぜ本質志向の教育が必要なのでしょうかというと、それは社会現象に正解なんてないからですよ。社会って、とりあえずの正解を決めてみんな進んでいくわけです。もちろん説得力だけあればそれでよしでもないですよ? 説得力があって小賢しい人というのもいます(笑)もちろんそれでは社会は動かない。

まとめると、日本の教育で一番大事なのは「自分の意見と信念をもって、ロジック立てて話す力」_そういう力を育むことかと思います。そしてこの力を育むためには「本質志向のインタラクティブ教育」が大切です。具体的には、相手を説得し合う環境をつくること。そうすると、実は誰も気付いていなかった第3の解がみつかった、みたいに新しい価値が生まれたりするんです。これがまた教育の醍醐味でしょう。」

そもそも教育とはなにか

―インタラクティブで第3の解をだすということですが、恐縮ですがこの企画もまさにその価値観が根本にあります。いままで「グローバル人材」という言葉が至るところで多用されてきましたが、この定義や内容を、各界の著名人や読者の方々と一緒に、インタラクティブの中でつくりあげていこうという趣旨なんですよ。

藤井「すばらしいですね。そう。教育とか人材論というのはクリエイティブなんですよ。クリエイティブということは一人が正解をもっているのではなくて、みんなが正解のカケラをもっているわけです。」

―なるほど。

藤井「それを互いで融合し、新しいものをつくっていくプロセスが「教育」なんです。だから誰かが正解を隠し持っていて、それを小出しにして教えてやるよというのは全然「教育」じゃない。そんなことをしたら一方通行の教育となり、受けての思考が停止するわけですよ。教育において思考停止は非常に危険。例えば私に怒られた息子は「だからやめればいいんでしょ!」って言うんですが、これもある意味正解思考なんですよね(笑)。「自分がどうしたらいいか答えを教えて」というメッセージですから。そうではなくて、二度と同じ過ちを繰り返さないためにはどすれば良いか考えないといけない。

これはダメ、これは良いというように正解・不正解をルール化してしまうと「おりこうさん」しかつくれません。日本というか、今のグローバル人材はそんなことは求められていない。そうではなくて、その人の「状況」が変わっても正解を導けるように、本質を考えさせる教育をしないといけないんです。

そういう本質をわかるためには、正解は自分が決めるんだ、という意欲をもつ必要があります。だから学校において先生ができることといえば「私を納得させる意見を言わないとこの教室を去らないぞ」という、そういう姿勢があっても良いのではないでしょうか。」

後編に続く

(記事作成:田中嘉   記事編集: 田中嘉 )

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