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ルイ・ヴィトンの元社長藤井清孝さんインタビュー(後編)

元ルイ・ヴィトン・ジャパン社長、ベタープレイス・ジャパン社長「君たちはどう生きるか」

記事作成: 田中嘉   記事編集: 田中嘉 | Innovation |2013.04.10

世界を変えるような「大きな構想」とは何か。構想を抱くということを感覚的に表現すると、「大自然の中にゆら立つ2トーンカラーの<炎>をもつこと」だという。上は赤い炎で、その下は海の色のような複雑で青い炎。  何か大きなことを成し遂げたいというときに、私たちはどうすれば良いのだろうか。そして、一生をかけて抱くVISIONとは、いかにして構想すれば良いのか。今回はその「構想力」の抱き方についてお聴きした。 「ですから、赤い炎のような「ワーッとただ熱い想い」があるだけではだめなんです。その下には海のような色をした静かな炎がある」と語るように、ただ熱いだけではものごとは成し遂げられない。  藤井氏は、様々な視点からこの「構想力」を説明してくれた。  「一見すると一つの炎だけれども裏には複雑な構造があるというのは日本庭園の考え方なんですよ。すごく自然に見える日本庭園は「自然にみせる」ためにたくさんの「施し」がある。」例えば盆栽をきれいな形に整えるためには季節ごとにやらなくてはいけないことが異なるし、人工的に複雑な手入れをしなくてはいけない。そういうことだろう。」 「これは「構想の炎」の下部にある青い炎も同じなんです。一見自然に見える「青い炎」なんだけど、その色には様々な考えが凝縮されている。だから、一見するとすごく美しいんです。美しいもの、シンプルなことには必ず複雑性というものが背後にあるんですよ。」  藤井氏の著書『グローバル・マインド 超一流の思考原理―日本人はなぜ正解のない問題に弱いのか』には、グローバルビジネスの経験から考えた日本人材のひ弱さが綴られている。その悪因の一つが構想力の欠如だ。  世界の中での日本の特長、そして、構想力ある人材を育む教育論まで。<構想の炎>を解き明かすロングインタビュー。時代を牽引するリーダーが抱くべき「大きな構想」とは一体何なのだろうか。

前編はこちら

元ルイ・ヴィトン・ジャパン社長 ベタープレイス・ジャパン社長

藤井 清孝(ふじい きよたか)

1957年神戸市生まれ。81年東京大学法学部卒業。同年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。86年ハーバード大学経営大学院(MBA)卒業。同年、ファースト・ボストン投資銀行ニューヨーク本社のM&Aグループに勤務後、40歳でケイデンス・デザイン・システムズ日本法人社長就任。2000年SAPジャパン代表取締役社長就任。2006年ルイ・ヴィトン・ジャパンカンパニーCEO、LVJグループ代表取締役社長就任。2008年、現職に就任。 ベタープレイス社は2007年にベンチャー・キャピタルより2億ドルの出資を受け米国カリフォルニア州で設立された、電気自動車用充電インフラ提供ビジネスの先駆者的企業。すでに欧州、米国、オーストラリアで、同社によるインフラ構築予定が発表されている。

学生インタビュアー

田中 嘉(たなか よしみ)

日本インタビュアー協会認定インタビュアー。
1991年東京生まれ。小学1年生から日本伝統芸能「能」を始め、6年間学び宝生流仕舞課程修了。将棋初段などを取得。高校時代に、オーストラリア、イギリスケンブリッジ、ブライトンなど3度留学。高校3年時には、小学生などにコミュニケーション教育活動を行うKEAOSを設立。その後慶応義塾大学環境情報学部に入学。60以上のインタビュー経験をもつ学生インタビュアー。
@Josh_yoshimi
HP:http://yoshimi1230.wordpress.com/

「シンプルの美」を生み出すために

―本題に戻りますね。感覚的にお聴きします。「大きな構想」の直感的なイメージを教えていただけますか?

「「大きな構想」って、イメージでいうと、大自然の中にゆらだつ、2トーンカラーの<炎>なんです。上は赤い炎で、その下は、海の色みたいな深い青さかな。なにがいいたいかというと、赤い炎のような「ワーッとただ熱い想い」だけがあってそれを語ることが「大きな構想を抱くこと」ではないということです。その奥にはもっと秘めたる情熱がある。心の底にずーっと眠っていた「複雑性」がある。ここがあるかないかが重要です。この複雑性_秘めたるものがあるからこそ、それがいざ世の中にメッセージとして表出したときに一過性の流行ではない、インパクトを生み出せるんですよ。」

―深いですね。

藤井「ちなみに、実はこれって日本庭園の考え方なんです。日本庭園というのはものすごく自然に見えるじゃないですか。でも、自然にみせるためにたくさんの人工的なことをやっていますよね。「構想の炎」の下部にある青い炎も同じです。一見自然に見える「青い海」なんだけど、その色には様々な考えが消化され凝縮されている。だから一見するとすごく美しいんです。」

―なるほど。

藤井「例えばこれって、さっき例に出したジョブズの考え方なんです。要するに、ipad, iphoneをユーザーに使いやすくするためにはものすごく複雑な仕掛けがあった。シンプルな外装とは裏腹、ねじの堅さまで考えてぬかれてデザインされているわけですよ。でも、見た目はものすごくシンプルでしょ? だから彼は日本庭園を好きなんでしょうね。シンプルなものであればあるほど、仕組みは複雑なんです。

それは「お寿司」だってそう。お寿司って世界で一番自然に近いシンプルな料理ですよね。原材料をそのままだすだけ。でも、魚が捕れたての状態で食卓にあがるためにはものすごい複雑な仕組みがいるんですよね。冷蔵のシステムとか、遠いところでとれた魚を新鮮なまま輸送するシステムとか。本当にシンプルなのものは、複雑な仕組みが裏で走っているからシンプルなんです。それは日本の強み。アップル製品は日本の考え方ですからね。

従って「大きな構想」というものも、複雑に見えてはだめなんです。シンプルなメッセージで良い。よく考え抜かれているからシンプルなんです。簡単なことを簡単にいうのではなくて、複雑なことを簡単にしているから大きな構想になる。」

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学生のうちからできることとは?

―では、どのようにしてこの力を身につけられるのでしょうか。

藤井「それは、日々、ひとつひとつ「相手」を意識することですね。自分のやろうとしていること、自分が発信しようとしていることが、相手にどういう付加価値があるか?を考えることです。極端な話、三度の食事をfacebookにあげてくる人がいるじゃないですか。こういう人は相手を意識していませんよね。SNSの投稿一つとっても、本当の意味でのインタラクティブを意識することは大切です。つまり、相手に価値のあるものを意識してだしていけば、「他人の意識」に入り込むわけですから、自然と人のニーズの本質を考える力が育まれるのではないでしょうか。」

―どうすれば相手のことを考えたインタラクティブなコミュニケーショをとれるのでしょうか?

藤井「一度立ち止まって、自分の発するものがプラスのエネルギーを与えているか考えることです。facebookの投稿ひとつをとっても、見たいと思う投稿には投稿者の「意図」があります。人に何か伝えようとか、新しい見方をシェアしようとか。意識的で無意識でも、意図があると受け手の印象がプラスになりますよね。」

―そう思います。ただ、受け手の立場にたって考えることって難しくないですか? だんだんと薄れていく意識のような気がするんです。例えばインタビューの編集でも、読者のためになる記事をつくろうと思っています。だから編集でも、話し手の言葉の中で読者がわからないであろうことに補足をしたりする。しかし、文章が長かったり同じ作業をやり続けていると、だんだんと読者視点というものが意識されなくなってしまうんですよ。

藤井「なるほど。そうしたら「結果主義の精神」をもてば良いのです。自分の結果をみて、自分を振り返れば良い。例えば外国に行ったとします。でも、なんか外国人とのコミュニケーションが上手くいかないなあと思う。当たり前ですよね。違う国で自分のやり方をしても通じないですから。そういった時に「インタラクティブ」に考えれば良いのです。うまくいかないという「結果」を反省することによって、自分の悪いところがわかる。結果があるから、逆算して、自分のどこがおかしいかってプロセスを考えるんですよ。

一方で結果が出ないところにいると危険です。どんどん自分のやり方にはまってしまいますから。だから自己中心的なコミュニケーションスタイルになってしまう。

話を戻しますが、Facebookというのはそういう「結果」がないから、やり続けるわけですよね。「かっこつけているけど全然もてない」というのもそう。「もてない」という結果を直視して、原因を考えなくてはいけませんよね。大事なのは結果主義なんです。」

―なるほど! なんだかいろいろと教えていただいて「藤井教室」みたいになってきてしまいましたが(笑)調子にのってもう一つ視点の違う質問してもよろしいでしょうか。

藤井「はい(笑)」

聴くときのコツ

―大きな構想を抱くことにおいて、人のニーズの本質を考えるということが大切ということですよね。人のニーズの本質を考えるには、そもそも人に対して深いレベルで「聴く」ことが大事だとおもうんです。インタビュアーとしてもぜひうかがいたいのですが、「聴く」ときのコツはありますか?

藤井「それは「仮説」です。要するにね、一つの物事に対して「これはこうじゃないかな」っていう仮説を何個ももった上で聴くことです。「思い込み」ではありませんよ? そうではなくて、こうかな、こうかな、と常に頭で仮説を立てて考えながら聴くということです。そうやってコミュニケーションをとると、インタラクティブが生まれます。」

―確かに、インタビューでも事前に相手のことを調べるときには、必ず様々な相手に関する仮説をたてていきます。

藤井「仮説をもっていて、それが「信念」に変わったものは、単なる思い込みの意見で議論している人に絶対負けないんですよ。私がマッキンゼーで働いていたときもあらゆる仮説を考えた上で仕事に望んでいました。そんなこと考えていないでしょ? ということすら考えましたから。」

―そうなんですね。

藤井「ルイ・ヴィトン・ジャパンで社長をやっていたときも、仮説が信念に変わった瞬間が在りました。ルイ・ヴィトンって面白くて、世界の売り上げの3分の1くらいは日本人なんですよね。なぜ日本人はヴィトンをたくさん買うと思います? 今までの通説的答えは、日本人は質の高いものが好きだから、とか、ブランドも好きだからというものでした。ただ、それにしても売り上げが多いので、考えたんです。そして、それまで20年誰も考えていなかったことに気付きました。

実は、日本におけるルイ・ヴィトンって、20歳前半の女の子の売り上げが高いんですよね。30歳40歳になると他の国の人も同じくらい買っているのだけれど、圧倒的に違うのは若い人なんです。ではなぜ日本の女の子はヴィトンのバッグを買えるの?というと、みんな親と一緒に住んでいるからなんですよね。家賃と食費が要らないから、お給料がまるまるファッションに使えるんです。そういう女の子って世界で日本が一番多いんですよ。日本特有の傾向でした。アメリカでは多くの大学生はの寮生活ですし、韓国などは徴兵制がありますし。親と一緒に住んでいて、親のすねをかじっているのは先進国の中では日本が圧倒的に多いいわけですよ。」

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君たちはどう生きるか?

―日々仮説をもちながら物事を考え、それが信念に変わったときに大きな構想を抱く。そうすれば、骨太の仮説ができるということですね。ところで、いまのルイ・ヴィトンのお話でふと思ったのですが、親のすねをかじって生きている人口が多い「日本」ってどうなんですかね。

藤井「大きな構想が抱けないとか、それに向かって突き進むエネルギーに欠ける根本的な理由というのは、実はここかもしれませんね。要は、教育やらカリキュラムの話もしてきましたが、結局大事なのは<生き様>なのかもしれません。

僕はミュージシャンを目指している息子が就職について真剣に悩んでいるとき、こう言いました。

「ミュージシャンとして本気でやっていくか、就職するか迷う気持ちはわかる。ただ、もしミュージシャンになってポシャったとしても、お父さんは助けないぞ。そのときは自分で仕事を見つけるんだ。そういう覚悟をもって、ミュージシャンの道を選択できるか?その意志はあるか?」

自分の人生を、自分の意志でガツンと決断する。そういう自分の生き方というものを早く考えさせるような社会や教育にしないと、日本は絶対にうまくいかない。真剣に自分の人生と向き合って「自分らしく生きる」というのは、自分の権利でもあり、義務なんです。他人がつくった人生ではなくて、自分がよく考えたことをやれ、ということですね。この姿勢がきっと、大きな構想を抱くだけでなく、実現させることに繋がるでしょう。」

まだ開店前の薄暗い階段を下ると、青いドアがところどころ黒くさびている。インタビューの前日、僕はホストクラブにいた。もちろんホストをしていたわけではなく、No.1ホストへのインタビューだった。コの字型に並ぶ黒いソファーで10人ほどの男がガヤガヤと準備している。まだ若い肌をしたハタチ前後の学生が、ほうきのように痛んだ髪の毛を逆立ててセットする。No.1ホストはつぶやいた。「ホストっていうのは、これはかけひきなんですよ。どういう女性か見極めて、相手が喜んでくれるようなかけひきをするんです。」これまで何人の女性と遊んできたかわからないが、そういう生き方をしてきたのだろう。
「力」というものは、身につけるものではなくて、身に付くものなのだと感じた。そしてそれは、その人の「生き方」に強く影響される。藤井氏は、他人がつくった人生ではなくて、自分がよく考えたことをやる「生き方」をもっていた。その意志と生き方が、大きな構想を抱く力を授けたのではないだろうか。
君たちはどう生きるかという問いが、いま私たちにつきつけられている。

(インタビュー・編集/田中嘉 写真撮影/村上ひかり)

(記事作成:田中嘉   記事編集: 田中嘉 )

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