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数学者・桜美林大学リベラルアーツ学群専任教授、芳沢光雄さんインタビュー

21世紀の若者に数学は必要か。若者が身につけるべき数学的思考とは?

記事作成: 田中嘉   記事編集: 田中嘉 | Future |2013.07.30

「私の芸術を真に理解できるのは数学者だけである」-有名なレオナルド・ダ・ビンチの名言にこんな言葉がある。「数学」とは何か。数学者にインタビューするにあたって、私は考えた。数学の歴史をたどると、どうやら古代メソポタミアにまでさかのぼる。数学とは、約5千年もの年月を経て形づくられた学問だ。そして、数学を語る時に欠かせない概念である数や形は、人類最初の「抽象的概念」だったといえる。それからというもの、人間は未知の難問と向き合い、解決し、また新たな問いに向き合ってきた。「数学」と向き合い、「数学力」を考えることは何を意味するか。それは、人間の思考の進化と向き合う事であり、人間の未来をみつめることになるかもしれない。

しかしどうだろう。21世紀を生きる「若者」と「数学」との距離を計算してみると、思ったよりも遠い気がしないだろうか。私たちは数字をみたとたんに怯え、数学と聞いた途端に嫌気がさす。若者の理数離れと言われるいま、考えてみたいと思った。なんとなく感じる数学の必要性ーー本当に、21世紀の若者に数学は必要か。

数学者・桜美林大学リベラルアーツ学群専任教授

芳沢 光雄(よしざわ みつお)

1953年、東京生まれ。75年、学習院大学理学部数学科卒業。81年、米国オハイオ州立大学博士特別研究員、83年、慶應義塾大学商学部助教授、96年、城西大学理学部教授を経て、2000年、東京理科大学理学部教授。2007年より現職。理学博士。90年代前半から算数・数学の面白さや重要性を訴え、啓蒙活動に励んでいる。主な著書に、『ふしぎな数のおはなし』(02年、数研出版)、『数学的思考法―説明力を鍛えるヒント』(05年、講談社現代新書)、『新体系・高校数学の教科書(上・下)』(10年、講談社ブルーバックス)、『就活の算数』(12年、セブン&アイ出版)など多数。

学生インタビュアー

田中 嘉(たなか よしみ)

1991年東京生まれ。19歳でインタビューをはじめ、これまでに棋士、デザイナー、職人、世界的企業の社長、芸能人やホストまで70人近い人にインタビューし、記事を作成・発信している。慶應義塾大学清水唯一朗研究会でインタビューを学ぶ。20歳より会社の連載や財団、NPOなどの記事作成多数。講師として、日本インタビュアー協会文章編集セミナーや品川女子学院総合授業、インタビュー・編集講座@新丸の内ビルディングなど。その他慶應義塾SFCや都立高校にてインタビュー講演を実施しインタビュー普及活動をしている。@Josh_yoshimi HP:yoshimi-tanaka.com

数学嫌いはあなたのせいではない

田中「本日はよろしくおねがいします。「これからの時代において必要な力とは何か」とテーマでお話していただけたらと思います。数学嫌いの若者が多いですが、21世紀に数学は必要なのか。そもそも、数学とは何か。活かすべき数学的思考とは何か。いろいろとお話を伺えたらと思っています。」

芳沢「はい。ようこそこんな遠いところ(桜美林大学プラネット淵野辺キャンパス)までお越し下さいました。ちょっと忙しくて質問を読み込めていないのだけど、聴かれた事を答えれば良いんですよね。まあおかけになって。よろしくお願いします。」

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–インタビューを行った研究室の前にはこんなポスターが貼られていた

田中「実は、インタビューにあたって著書も読ませていただきました。数学は受験時代に苦い思い出があるのですが、芳沢さんの解説を理解すると、数学って面白いなあと思います。」

芳沢「ほんと?それは良かった。」

田中「私たち大学生にとって、数学というと、だいたい受験数学を思いだすんです。たくさんの公式と、計算の速さが競われるもの。でも数学って、もっと違う面白さがあるのかなと。」

芳沢「そうそう。そうなんですよ。この際はっきり言っておきますが、数学の授業がつまらないのはむしろ先生がだめなんですからね。今の若いみなさんが数学嫌いだというのは、多くはみなさんが悪い訳ではないんです。

というのもね? これは全ジャンルの教授全般に言えるかもしれませんが、学生の立場にたって考えられない人が教えてもつまらないんですよ。例えばそれが数学の教授だったら、中には直前までずっと数学のことしか考えない研究者もいるわけですよね。そういう人がいざ教壇にたって、数学嫌いの学生対しても「数学における”連続”という概念とは…」とか大上段から語りはじめても、教え方に工夫がないからつまらないでしょう。それで、学生が寝ていると「なんだ!お前らみんな寝ている、けしからん!」といって学生のせいにする。怒る方がバカだと思いません?」

田中「はい(笑)」

芳沢「先生だったらもっと楽しい授業をしなきゃ。」

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−−XY軸の説明をするために自らゲームセンターにおもむき、UFOキャッチャーでぬいぐるみをとったという芳沢教授は年齢にして60歳。UFOキャッチャーは、縦(Y軸)と横(X軸)からみることで位置を特定するので、実は数学的要素を含んでいる。

今、何か”問題”があったときの姿勢が大きく変化している

田中「芳沢先生はこれまで、延べ1万3000人の学生に教えてこられたと思います。非常勤講師を合わせると10大学に上りますよね。何か、学生の変化を感じますか?」

芳沢「よくぞ聴いてくれました。これは数学だけにとどまらない話なのですが、学生は猛烈に変わっています。」

田中「どんな変化があるのでしょう。」

芳沢「もちろん一概には言えませんが、一ついえるのは、何か”問題”があったときの姿勢です。すぐ解法を知りたがるようになりました。「これってどうやって解くの?」とすぐに聴いてきます。一方で昔の学生は、たとえ一瞬解けなくても試行錯誤して問題に取り組もうとしました。試行錯誤を楽しんでいたのです。

これも授業と同様、学生にすべての非があるわけではないと私は思っています。すべての害悪の始まりはセンター試験でしょう。センター試験共通一次で「マークシート」がはびこるようになったこと。

そもそも数学というのはね、「答えを導く」ものなんです。一つ一つ論理を組み立てていって、解を求めます。これが楽しいんですよ。だから本来の数学問題というのは記述が多かったんです。しかし、今は違う。今の数学は答えを「あてれば」良いんです。マークシートに○をして、ピンポーンって。”あたるかどうか”が問題になってしまいました。これは大問題です。」

田中「答えさえ当てれば良いマークシート問題が増えた事によって、学生も「答えさえだせれば良い」と考える。だから、試行錯誤する忍耐力や楽しみを失いかけているんですね。」

芳沢「そうですよ、そう。」

芳沢「大学生が就職活動試験で受けるSPIの参考書。これをみてみてください。数学のところをみると、答えをだすための「方法」ばかり書いてある。一方で「なぜそのような方法で解くか」ということが書かれていないです。

だからね、この間驚いたことがあります。時速20kmで5時間すすめば何kmになるでしょうという問題がありました。何kmかわかりますか? この問題の答えを、20÷5で「4km」ってだす学生が多くの大学にいるんです。もう、これには驚きました。なんでこうなるのかというと、解法だけを覚えているからなんです。そして、「なぜそう解くのか」という根本的な理解をしていないから。根本的な理解をせず「みはじ」とか「はじき」とか、それだけ覚えている。バカの一つ覚えであんなくだらない三角形もってきて!もうあんなものやるなって思います。こんなもの隠してやりたいですね!」

(一同笑い)

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若者が身につけるべき数学的思考とは?

芳沢「そういう意味ではね、まず「やり方の固定概念」を取り払うことから始めてほしいんです。これは数学だけには限りません。何か問題があったとき、解決方法を記憶に頼るのは、いったん捨ててください。

それでもマークシート世代のみなさんは、何か問題がでたとき「えーっと、この問題の解決方法はなんだったか」というように、解決方法を「記憶」にたどるんですよ。記憶にたどるということは、いつの時・時代も固定化された解決方法で取り組むことですからね。これでは新しい問題や、次世代の問題を解決できないです。」

田中「確かに、新しい問題・次世代の課題を解決するには、方法も新しく考えていかなくてはいけませんよね。」

芳沢「その瞬間に、試行錯誤して考える。そうして、死ぬほど失敗すると良いと思います。やり方に頼っていてはダメ。交通事故以外の試行錯誤や失敗は、やれば必ず勉強になります。一方、解決方法を常に記憶に頼っていると、記憶にない問題は投げだしてしまうんですよ。粘り強く試行錯誤するか、やり方を知らないから「はい、おしまい」って匙を投げるか。そこが人間の分かれ道です。」

田中「「やり方の固定概念にとらわれない」ということですか。確かに私たちは「方法」をたくさん教わってきた世代なので、脳内は「解法」であふれています。こういうときはこうすれば良い、というような。これをいったん意識的に取り払ってやるといいのかもしれませんね。」

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21世紀に数学が必要な理由とは

田中「若者が身につけるべき数学とは試行錯誤だということを教えていただきました。では、これからの時代において「数学」は必要ですか。他にも必要な理由があれば教えてください。」

芳沢「大いに必要でしょう。キーワードはグローバル化です。グローバル化する世界の中では様々な法体系の人と議論しなくてはいけないですよね。数学力とは、「ダイバーシティの中で議論する力」ともいえるんです。つまり、今の時代の国を超えた議論というのは、バックグラウンドが異なるのだから、主観的な議論では話はまとまらない。客観的な議論が必要です。そこに「数学」が要るんです。数字を用いたり、論理的な考え方で話を組み立てて議論する力、ですよね。

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いま、世の中には様々な地球的問題であふれています。PM2.5の環境問題、為替レートの問題、インターネットや石油の問題もそうでしょう。これらすべて、一国の議論ではなくて、国境を越えて、様々な人との議論の中で解決していかなくてはいけません。亡命申請している人の立場をどうするかという問題だって、筋道たてて議論するしかないわけですよ。

このときに感情論で議論してもダメなんです。数字をつかって、相手にもわかるように論理的に話すこと、つまり数学の発想が大切です。「むかつく」とか「笑える」とか、みなさんこの2つの言葉だけしかいいませんが、これじゃダメなんですよ。」

数学力はどう身につけられるのか

田中「では、論理的な考え方で話を組み立てて議論する力はどのように身につけられるのでしょうか。」

芳沢「それはレポートを書くときの意識ひとつで身につけられます。例えば、レポートでは3段論法を意識して書いてみてください。自分の主張を、単に感情論で訴えるのではなく、3段階で論理的に説明するんです。例えば、「全ての人間は死すべきものである、ソクラテスは人間である、ゆえにソクラテスは死すべきものである」というのが3段論法。」

田中「感情論ではなく、第3者でもわかるような説明をしろということですね。」

芳沢「はい。レポートの文章もそうですが、人に説明をするときというのは、誰にでもわかりやすい文章を書くということがポイントなんです。その文章を読むだけで誰でもわかるし、とんでもない誤解が生まれないということ。そのためには相手の立場にたってみなくてはいけない。これは基本でしょう。」

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もう一度数学の世界へ

芳沢「数学って、実はものすごく現実的なものなんです。そもそも「数」がどのように生まれたか知っていますか? 数は、実はひつじや道具など「モノの管理」を簡易化するために生まれたんです。

原始時代を想像してください。生活していく中で、物の数を数えたり、それを記録する必要が出てきますよね。例えば、家畜などを管理しておくときに、その数を記録したいと考えたのかもしれません。数が生み出される前、ものを保存管理することにおいて、人間はそれぞれの「トークン」を使っていたんです。カタチの違う石のようなものですね。羊だったら「▼」の石とか、茶碗だったら「●」の石だとか。つまり1対1の概念だったんです。ただ、これは概念でしかなくて「数字」ではない。

しかし紀元前3千年頃、数字が生まれました。5個の木の実にも使えるし、5匹の羊にも使えるような「模様」。これが「数」の発想なんです。とても現実的ですよね。発祥はいまのイラクの地域だと言われています。」

田中「数はものをかぞえるために発明された道具だったんですね。」

芳沢「そうなんです。数学はとても現実的だし、面白いんです。そしてわかりやすい。」

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田中「私たちは受験のせいで、数学=非現実的なもの・難しいものと捉えていますが、実は真逆なのかもしれません。とても現実的なものだし、わかりにくい物事をわかりやすくシンプルにしてくれる道具、これが数学なのでしょう。」

芳沢「そうですね。もちろん今日お話しした通り「グローバル化する社会において」という文脈でも、国境を越えて議論・協力していくために数学は必要です。数学力とは、論理的な考え方で議論する力なのですから。」

田中「はい。」

芳沢「しかしね、議論する道具として数学をみれば、数学って結局、すべての学問に通じる学問なんです。数学とはなにか。それは「約束事がある世界で、何が成り立つか・何がなりたたないかを厳密に議論する学問」だと私は思っています。一言で言えば「議論する道具」ということです。

自然科学、社会科学、人文科学だって、客観的に議論しようというときは数字を使いますよね。だから、数学というのはどんな学問でも絶対に必要なんです。社会科学や自然科学や人文科学の話を数学の世界に落として、数字を使って考える。そしたら今度は、その結果を元の学問の世界に戻してあげれば良い。

そういう意味で、すべての学問において数学は特殊であり、普遍的な学問です。だから、これからの時代にも必要だし、もちろん、いまも、遥か昔も、人間がいる限り必要なものでしょう。」

(インタビュー・編集:田中嘉 / 写真撮影:杉田なお)

(記事作成:田中嘉   記事編集: 田中嘉 )

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