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東京五輪招致にも貢献した現役慶應生クリエイター初鹿敏也さんインタビュー

「マジョリティーに埋もれないために、僕は大学生活をこう過ごした」

記事作成: 中野 綾香   記事編集: 和田有紀子 | Innovation |2014.05.28

大学に入学するということは、これまでに経験したことのない巨大なコミュニティーに属することなのかもしれない。若者たちの傾向が同化し、それぞれの人生を決断するはずの就職活動でさえ友達と一緒に、といった学生が話題になっているが、そんな巨大なコミュニティーの中で、どうやって自分らしく生きていけばいいのか。自分だけが異なる存在になるということは現代社会において非常に難しいことなのかもしれない。どのようにして一歩抜け出した人材になるのか、その問いを現役慶應生ながら数々の映像コンテストで受賞をしている初鹿敏也さんにお聞きした。

水墨画家 / 映像クリエイター

初鹿 敏也(はつしか としや)

1992年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部在学中。

総務省主催ネット選挙映像コンペティション総務大臣賞、東宝シネマズ映画祭 CM部門 グランプリ、GATSBY アジア CMコンテスト マンダム賞など、30以上ものコンテストで賞を受賞。水墨画家・クリエーターとして活躍するほか、慶應義塾大学湘南藤沢高等部等で映像クリエーターの講師としても活動している。

学生インタビュアー

中野 綾香(なかの あやか)

1992年、長野県出身。慶應義塾大学法学部政治学科在学。いつもは見ることの出来ない、人間の新たな一面・魅力を、インタビューを通して引き出したいという信念のもと、株式会社トモノカイ・gi人材projectで活動を始める。

【インタビュー】初鹿3

(photo by takahiro sugahawa)

◆マジョリティーの中で、勝てる自信がない

中野「CM制作でたくさんの賞を受賞されている初鹿さんですが、そのようなすごい映像はどのようにして生まれるのですか」

初鹿「そもそも自信がないので、マジョリティーの中で勝負して勝てる気がしないのです。映像をつくること自体はあまり好きじゃないのですが、この映像を見た人をどのような気持ちにしたいのかを常に考えています。1000ある作品のなかで、999の中に入って勝負するよりも、はじめから1になるにはどうすればいいのか。特にコンテストの場合は競争率が激しいので、見え方を考えなければならない。ただ自分のつくりたいものをつくるのか、他の999を意識したものをつくるか。自然とマイノリティーにならざるを得ない」

中野「そのような戦略で賞を取られた例を挙げていただいてもよろしいですか」

初鹿「例えば総務省主催のネット選挙に関する映像コンテストでは、ネット選挙についてのPR映像制作が課題だったのですが、プロの映像作家もいればアマチュアもいた。その中でアマチュアの自分がどのようにしたら審査員の目に留まり、自分の映像が世の中に出ていく機会を与えてもらえるのだろうと考えました」

「ネット選挙のPRっていうと政治などの堅苦しい現状も絡んでくるので、多くの人たちがドキュメンタリーなど堅い映像を作ってくるであろうと思いました。でも審査員には総務省の方と一緒に中川翔子さんもいて、なぜ総務省の方々は彼女を審査員に起用したのかを考えると、その背景には、この映像コンテストを通じて、もっと若者に選挙について考えてもらいたいというような気持ちがあったのではないかと思うのです」

「そのような審査員側からしてみたら堅いものよりも、若者っぽい映像の方が喜んでもらえるのではないかと思い、大勢の若者に出演していただきました。そして一切選挙制度の説明の出てこないアニメーションPVを作り、最終的には最多得票をいただいて総務大臣賞をいただきました。堅い映像が集まっている中から、PVという形で一歩抜け出すことで、印象にのこるものになっていたのです」

中野「なるほど。その他にもそういった経験はありますか」

初鹿「あまり言い過ぎるのもどうかと思うけれど、ギャツビーのCMコンテストでは、『マンダム賞』という、社員さんの選ぶ賞があったんです。マンダムはワックスで有名であり、そのコンテストでは応募者の多くがワックスの映像を作ってくることが予想できたので、洗顔フォームの映像を作りました。マンダムの社員さんの気持ちを考えれば、うちはワックスだけじゃなくて洗顔フォームも販売しているのだから、そちらにも目を向けてほしい!という気持ちはあるだろうと思ったので」

「ただ、このコンテストは世界中から1000以上エントリーがあるので、さらに見せ方を工夫しなければいけなかった。洗顔フォームのCMにおいては、多くの作成者は『すっきり』という観点から映像を作ってくるだろうと思ったので、そういった洗顔フォームの効用をいうよりは、登場人物が失恋したという状況に設定して、その時に洗顔フォームで顔を洗うと、顔ではなく、気持ちがすっきりするという風に作りました。学生のくせに変に大人ぶったプロっぽい映像よりは、失恋という設定もちょっとダサくて大人達から好かれると考えました」

【インタビュー】初鹿4

 

 

◆相手は、いつから自分達になっていたのか

初鹿「中学や高校で映像の講義をさせていただくことがあるのですが、授業が終わった後にfacebook等でたくさん質問が送られてきます。質問をすること自体はもちろん良いのですが、その質問内容は大体技術的なこと。『この映像ソフトはどのように使うんですか?』とか『どうやったら技術を習得できますか?』とか。でも本質はそこではなくて、どれだけ対象となる相手のことを考えてその人にフォーカスした映像を作れるかということなんです」

「映像に詳しい人ばかりで映像を作ったりすると、気付いたら『この技術ってやばいね』という感じの話になるときがある。このエフェクトがすごいとか、この最新技術がすごいとか。でも一歩引いて見てみると、よく分からない。見る側から関係ないことでしょう。一般の人からしてみたら、テレビを見る人からしてみたら、技術なんてどうでもよくて、それが楽しいか、楽しくないか、分かるか、分からないとか、そんなものなのに。むしろ、それを助けるために技術があるはず。こんなにすごい技術を使って頑張って作ってるんです、と言ったところで、それは自分達の気持ちであって、受け取る側からすれば関係ない。相手が何を感じたのかが大事なのです」

中野「ということは、初鹿さんは技術よりも人が何を感じるのかを重視していらっしゃるのですね」

初鹿「アーティストになりたいのなら、そんなことどっちでもい気もします。けどそうじゃないなら、相手の気持ちを、分からないなりに考えてみるということは大切かもしれない。相手のことを出来る限り考えるのか、そうでないのかで、つくるものは変わらざるを得ない。映像に限ったことではないけれど」

中野「では、実際に映像作成の時に気を付けていらっしゃることは何でしょうか」

初鹿「先程も言ったのだけれど、相手が何を求めているかを考えることが重要で、例えば友達に誕生日プレゼントとしてお祝いのビデオ映像を送るとしたら、その友達のことを考えながら作ると思うんです。あの人はこの音楽やテイストが好きだから、こういう映像を作ってサプライズプレゼントすれば喜ぶだろうなーって。身近な人に関して考えてみれば、その相手のことを考えて映像を作るというのは当たり前の様に出来るのだけど、それが知らない相手になった瞬間、なんとなく自分のつくりたいものをつくるようになってしまうので、そうならないように」

【インタビュー】初鹿5

(photo by tomohiro kawanami)

◆空気になるのが、怖くてたまらない。

中野「大学生というと、周りの大多数から抜けないようにして過ごしている人が多いと思いますが、初鹿さんが映像作家としてマジョリティーから抜け出した際、周りとは違ってしまうということに対して恐れなどはなかったのですか」

初鹿「逆にマイノリティーじゃないと不安になるんです。子供の頃にあまり褒められなかったので、空気のように自分が何のために存在しているのかっていうことを考えてしまうから。マジョリティーの中で勝負したら自分なんて勝てないけど、マイノリティーでいるからこそ自分の存在意義が分かる気がする。特に周りに人が大勢いる環境では、どうすればこの中でマイノリティーになれるのかってことを考えてしまう」

「例えば日常の大学生活において、“映像を作っている”人は少数派ですけど、映像クリエーターの集まりなどに行くと映像を作っていることがマジョリティーになる。そういった場では『書道や水墨画をやっています』って言いますね。そうすると、映像コミュニティーの中から一歩抜けられる。マイノリティーになれる。自分がそこにいても良い気がして、安心するのです」

中野「初鹿さんは型にはまっていないことをすることが好きなように見えます」

初鹿「それは分からないけれど、子供の頃に書道の練習をしていた時、右手で文字を書くことを強制されていたんです。書道をやったことのある人はわかると思いますが、左手だと力の入れ方・はね・はらい等が右手で書く場合と違ってしまうから。それがすごく嫌だったのですよね。だって右手じゃなくて左手でも書けるじゃないですか。それで、書道じゃなくて水墨画を描きました。絵なら、右利きも、左利きも強制されないでしょう。自分が絵を描きたかったわけじゃなくて、よく分からないものから抜け出したくて絵を描いていたのです」

◆それは表面的なこと。

「自分だけしか分からないものをつくるのが、不安なのです。映像コンテストを受賞してからは、まわりに意見を求めても”初鹿くんがつくったなら良いんじゃない”と言われて、絶望した。そんなことあるわけがない。ドメスティックな環境で、自分たちだけが良いと思っているものほど、外から見ればよく分からない。マジョリティー、マイノリティーが良い悪いとかではなく、その中で安心してしまうことが怖いことなのです。属しているコミュニティーや、グループには、外があるということを忘れてはいけません。自分達だけの視点で物事を見て評価することに、違和感や不安を感じれるのか。自分が賞を取り続けることが出来た理由があるとしたら、他の応募者よりも不安だっただけなのかもしれない」

 

 

(記事作成:中野 綾香   記事編集: 和田有紀子

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