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イェール大卒、三井物産出身の落語家、立川志の春さんインタビュー

「異なる世界に踏み出す時、それまでの経験は無駄になるのか」

記事作成: 佐々木 凌   記事編集: 和田有紀子 | Innovation |2014.09.08

落語家

立川志の春(たてかわしのはる)

1976年大阪府出身。本名は小島一哲。小学校の3年間をアメリカで過ごし、日本の中高卒業後、名門イェール大学(米国)に進学。卒業後三井物産に入社し、3年半勤務。2002年、偶然通りがかって初めて観た落語に衝撃を受け、志の輔門下に入門。2011年1月に二つ目昇進。古典落語の他に新作落語や英語落語にも取り組んでおり、シンガポールでの公演も行っている。著書に「誰でも笑える英語落語」(新潮社)がある。

学生インタビュアー

佐々木 凌(ささき りょう)

慶應義塾大学政治学科1年、18歳。中高時代に読売新聞のジュニア記者として活動し、ノーベル賞物理学賞受賞者の益川敏英さんや、ユニセフ大使のアグネス・チャンさん、料理研究家の服部幸應さんへのインタビュー経験あり。 大学時代の目標「たくさんの人と会う」を叶えるためgiプロジェクト人材インタビュアーを始める。

落語に恋を。決めるなら今しかない

佐々木「立川志の春さんが落語家になろうと思ったのは、たまたま見た落語に衝撃を受けたからですよね。なぜ初めて見た落語にそこまでの感動を覚えたのだと思いますか」

立川志の春「今でも説明がつきません。何か伝わってくるものがあり、大きなインパクトを受けました。恋愛と同じだと思います。どうして好きになったのか分からなくても好きになっているのが恋じゃないですか」

佐々木「落語に恋をしたということですね。とは言え、イェール大学卒業後、三井物産に入社され活躍されていた当時、落語家になっていわゆる“エリートコース”をはみ出すことに迷いや怖さはなかったのでしょうか」

立川志の春「迷いは全くありませんでした。仕事では人間関係に恵まれ、やりがいもありましたが、それ以上に落語をやりたいという思いが強かったからです。それに、年齢から考えてこのタイミングを逃したらもう一生行けないとも感じましたし、20年後に『俺は昔落語家を目指したことがあった。あのときなっていればなあ』とぼやいている姿が浮かび、なるなら今しかないと思いました」

佐々木「趣味として付き合っていこうという考えはなかったのでしょうか」

立川志の春「実はそれについては迷いもありました。自分が飽きっぽい性格だということも分かっていましたし、一度も落語を経験していない自分が落語家になれるのかという思いもありました。自分を試すため、半年間かけて色々な落語を片っ端から見て、やはりこれしかない、落語家になろうと決心しました」

佐々木「なるほど。完全に迷いをなくすために、その半年間が大切だったのですね。ご両親はどのように説得したのですか」

立川志の春「両親は猛反対でした。落語の世界では両親が反対したままでは弟子入りが許されません。説得は正面突破で『落語家になりたい。今やらないと一生後悔する』という思いを粘り強く伝えました。3ヶ月かけてようやく説得できました」

佐々木「ご両親を説得し、立川志の輔門下に弟子入りすることができた志の春さんですが、弟子入り後辛かったことはどのようなことでしょうか」

立川志の春「落語の世界では入門してしばらくは見習いと呼ばれ、師匠の付き人になります。芸名も貰えず、勿論落語もできず、ひたすら家の掃除など雑用や、師匠の運転手を努めます。これがとても厳しく、一つ一つの細かい動作や態度まで、師匠にきつく言い聞かされる毎日でした」

佐々木「例えばどのようなことでしょうか」

立川志の春「師匠の運転手をしている時は、車間距離やウィンカーを出すタイミング一つから注意されます。どちらについても師匠が心地いいのはこれだ、というものがあるのです。どのルートで師匠を送るのか考えるのも大変でした。例えばいつも使っている道路が渋滞した場合、抜け道を使ったところで到着時間に大差はないと思ったとしても、抜け道を使った方がいい場合があります。遠回りになるとはいえスイスイ進むからというだけでなく、必死に渋滞に対処しようとしている姿をみせることによって、乗っている師匠が気分良くいられるからです。運転一つをとっても、ただ運転するのではなく、常に師匠の気持ちを考え、状況判断をしろという教えですね。因みに、それ以来東京の地図を買って毎日のようににらめっこをして、裏道をすべて暗記しました」

志の春さん

 日本から米国イェール大学へ。多様性の時代に得るもの

佐々木「学生時代に落語を全くやっていなかったことに関しては、不安はありませんでしたか」

立川志の春「その点について言うと、1度も落語をやったことがなかったのは逆に良かったと思っています。他の兄弟弟子は大学の落語研究会、いわゆる落研出身者がほとんどでしたが、彼らには学生時代に観客にうけていたという実績とプライドがあり、それがプロとしての修行の邪魔になる場合もあります。でも私の場合、しがみつくものがなかった・ゼロだった分、楽だったと思います。最初は受けなくて当たり前ですからね。ゼロから積み上げていく方が、一旦それまでのものを崩してから積み上げるよりは簡単ですから」

佐々木「経験がないからこそ有利になることもあるのですね。今度は逆に志の春さんが落語家になる前のご経験についてお聞きしたいと思います。まず、日本の高校からイェール大学に進まれたのはなぜでしょうか」

立川志の春「なんとなく直感によるところも大きいですが、理由を挙げるならば、日本の受験システムへの反発です。日本ではなんとなく偏差値で大学・学部を決めてしまいがちです。しかし当時の自分を含め、高校生のうちから自分の興味のある学問・分野が分かっている人は少ないと思います。その点アメリカの大学では3年まで自分の専門を決める必要がありません。そこに魅力を感じました。とはいえ、アメリカの大学を目指している方が高校の同級生の中で目立てるからという理由の方が大きかったかもしれませんが」

佐々木「グローバル社会と言われる今でも、日本の高校から直接海外の大学に進学する学生はまだまだ少ないですよね。当時イェール大には日本人学生は何人くらいいたのですか」

立川志の春「私の同期では5人くらいで、そのうちインターナショナルスクールでない日本の高校から進学したのは私を含め2人だけでした」

佐々木「イェール大にはアメリカからだけでなく世界中から優秀な学生が集まってきますが、志の春さんはどのような大学生活を送ったのですか」

立川志の春「寮生活だったので、いろいろな国の人と生活をしたことが一番思い出に残っています。どこか際立っているところがある人を合格にする入試制度のおかげもあり、起業している生徒や、6カ国後を話せる生徒など、天才的な才能の持ち主がたくさんいて、とても刺激を受けました。部活はラクビーをやり、学問は中国史を専攻しました。わざわざ日本からアメリカの大学に行って中国史を学ぶのはおかしな感じもしますが、先生が面白かったからというのが理由です」

何を学び誰と出会うか。学歴以上に学生が大切にすべきこととは

佐々木「中国史の先生との出会いや、落語の師匠への出会いなど、志の春さんが進路を決める際には、人との出会いが重要な役割を果たしているのかも知れませんね。では、卒業後、三井物産に入社されたのはなぜでしょうか」

立川志の春「イェール大での生活から、もっと日本について知らなければならないと思ったからです。自分にはずば抜けた才能がないと感じ、そんな自分が世界で活躍するには日本人としての価値観・アイデンティティを武器にするしかないと考えました。しかし、それにしては日本について知らなすぎると思い、日本で働きたいと考えました」

佐々木「日本を離れたからこそ、日本を意識したのですね。イェール大での経験が修行時代に活きたこと・無駄になったことはどんなことでしょうか」

立川志の春「まず、落語の世界においてイェール大卒、三井物産出身という肩書きは全く役に立たず、邪魔ですらありましたが、それは修行期間がうまく壊してくれました。プラスに働いたのは、学生時代に自分は凡人だということを思い知らされていた為、余計なプライドを持たずに修行に取り組めたことです。逆にマイナスだったのは、イェール大では『自分の意見を言え。個性を出せ』と言われ続けてきたのに、入門してからは前座という立場で『お前の意見なんか誰も聞きたくない』というふうに180度変わったことです。初めのうちはかなり戸惑いました」

佐々木「アメリカの文化と、日本の中でも特に日本らしい落語界の文化では正反対ですものね。大学生の中にも、なにか思い切ったことをしたいと思っていても、エリートコースから外れることを恐れている人も多いのではないかと思います。志の春さんは、全く違う世界に入っても今までの経験は活きると思いますか?それとも無駄になってしまうと思いますか」

立川志の春「先程も言ったように、大学のブランドは卒業してからはあっけなく剥がれていきます。しかし、何を学ぶのか、誰と出会うのかが必ず10年後活きてきます。大学生の皆さんには、今東大にいる・早慶にいるというような学歴は抜きにして、日々の経験や勉強・出会いを大切にして欲しいと思います」

佐々木「最後に、大学生にメッセージをお願いします」

立川志の春「現代社会は、情報が溢れている世の中です。実際に食べなくても、どのレストランがおいしいのかランキングで知ることさえできます。しかし、そんな世の中だからこそ実体験を大切にして、自分で判断するようにして欲しいと思います。
落語も動画やCDではなく、生で見て欲しいと思います。私が初めて触れた落語に感動できたのも、生で見ることができたからだと思っています。落語は、お客さんの想像力があって初めて成り立つ、不親切な芸です。だからこそ、演者と観客の世界が噛み合った時にものすごい力を持ったエンターテインメントになります。そして、自分の頭で描いた絵は一生消えません。大学時代の本物に触れる経験の一つとして落語も生で見てもらえればと思います。誰の公演を見るか迷った場合は……ぜひ私の公演を見てください」

佐々木「これからも楽しい落語を世界中に届けられるよう頑張ってください。本日はお忙しい中、インタビューをお受けいただきありがとうございました」

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(記事作成:佐々木 凌   記事編集: 和田有紀子

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