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『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』編集者、株式会社コルク社長 佐渡島庸平さんインタビュー

世の中の仕組みを知り、時代の変化を読み取るために、学生が必要なこととは

記事作成: 和田 有紀子   記事編集: 和田有紀子 | Future |2014.10.10

インターネットにより急速に世の中の仕組みが変わろうとしているこの時代に、私たち一人ひとりが身に付けておく力とは何か―これまで多くの有名作品の編集に携わり、作品を通じて世の中へメッセージを発信し続ける敏腕編集者、佐渡島庸平さんにお話を伺いました。

株式会社コルク 代表取締役社長

佐渡島庸平(さどしま ようへい)

2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社、コルクを設立。現在、『オチビサン』『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『テンプリズム』(曽田正人)、『インベスターZ』(三田紀房)の編集に携わっている。

当サイト編集長

和田 有紀子(わだ ゆきこ)

1992年生まれ、東京大学経済学部3年。企画・編集業務の傍ら自身も記事やインタビューを執筆。雑誌等への記事提供や大手企業でのコンテンツマーケティングも手掛ける。記事を通して、学生のさまざまな可能性が広がることを目指して活動を続ける。

“憧れ”を見つける

和田「中学生時代は南アフリカに住まれていたということで、日本と全く異なる環境で得たことや感じたことは何でしょうか」

佐渡島「実は、南アフリカは日本と全く違うんだというイメージを持って行ったら、意外と日本と違わなかったんですよね。南アフリカも先進国なので、取り立てて環境の違いに困る、ということもありませんでした。 治安が悪いなどということもありますが、結局はただ人々がそこにいて生活しているということはどこに行っても同じだし、言語や人種の違いはあるけれども、言語が違うからといってルールが全く違うということもないので、『日本と変わらない、一緒だな』ということが、僕が気づいたこと、感じたことです」

和田「帰国後、灘高校に進学され、東京大学に入学された佐渡島さんですが、東京大学を意識されたのはいつ頃のことでしょうか」

佐渡島「意識したのは高3の夏ですね」

和田「その時は何かきっかけがあったのでしょうか」

佐渡島「柴田元幸さんという尊敬している教授が文学部にいて、その人のもとに行こうと思って東大に決めました。ですから入ってからも1年生から4年生までずっと柴田教授の授業に出ていました。柴田教授の授業が自分の学年にないときには、別の学年の授業に出てみたりもしていました」

和田「柴田教授に憧れたのはどういったことがきっかけなのでしょうか」

佐渡島「村上春樹が大好きなのですが、村上春樹の本を読んでいると翻訳ものの本の巻末に謝辞で柴田教授の名前が出てくるんです。村上春樹が謝辞を出す人ってどんな人なんだろうと思って、柴田教授の翻訳やエッセイを読んでみたら面白くて 。そのうちに会いたいなと思うようになりました。その他にも、小説家の池澤夏樹が好きだったのですが、彼がくじらと泳いだことに憧れて、海洋調査探検部というサークルにも入っていました」

和田「人に魅せられて行動する、ということが多かったのですね」

佐渡島「基本的に学生は、憧れの人を見つけるというのが重要でしょう。僕が高校生の時には村上春樹がWEBサイトを持っていて、そこにメールを送るとたまに返信が来ることがありました。今だとTwitterなどで憧れの人に連絡してみたりすることができるわけだし、それによって憧れが冷めることもあれば、より深まることもある。そういったチャンスを掴むのは自分次第だという時代にどんどんなってきているので、今の学生は恵まれていると思います」

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 “自分が何者なのか”自分の心に問いかける

和田「就職活動はあまりされていないとお聞きしていますが、佐渡島さんの就職活動についてお聞かせください」

佐渡島「ずっと大学院に行こうと決めていたので、本当はするつもりはなかったのだけれど、親にほんの少しでも就職活動を経験してみた方がいいと勧められて。実際にやってみるとなかなか大変な経験だったので、内定をもらった講談社に行かないのがもったいなく思えて入社を決めました」

和田「大変だったとのことですが、就職活動を通じてどのようなことを感じられましたか」

佐渡島「就職活動中に常に感じることは、“自分がいくらなのか”ってことです。高校生や大学生の頃だと、自分が好きではない相手が自分のことをどう思っているかはあまり気にしないけれど、自分が気になっている人が自分を好きになってくれるかどうかは気になりますよね。ですが就活はそうではなくて、“自分に全く興味のない人にとって自分が価値があるか”という問いかけをするわけです。親も親戚も友達も普通そんなことは聞かないので、ほとんどの人にとっては初めての体験なはずです」

和田「佐渡島さんの場合、そういった初めての経験に戸惑ったりはしませんでしたか」

佐渡島「そういうものか、と割り切りましたね。講談社には内定をもらったものの、書類で落とされた会社もありましたし、人に一瞬で自分のことをわかってもらうことは難しいのだということもわかりました。でもそれは運と相性ですから、あんまり深刻にならなくていい。ただ、“自分が何者か”という問いは、若ければ若いうちから自分に問いかけた方がよいと思います」

和田「“自分が何者か”というのは具体的にどういったことでしょう」

佐渡島「自分の執着やこだわりがどこにあるのかを知るということです。ほとんどの学生にとって、学習して取り入れる知識はすでに“確定した”知識です。すべてに答えがあると思っているので、自分の感情に対する答えも、どこかで模範解答を見て、それと似たようなことを答えている。自分の心というものをほとんど見つめたことがないはずなんですよ。実は自分の心が何も感じていない可能性もあって、それにすら気づけていないこともある。そういったこと全部に気づくようになってくると、色々なことがわかってくるはずです」

和田「佐渡島さんが今までに自分に問いかけてみて気づいたことの中で、印象的だったことはどのようなことでしょうか」

佐渡島「講談社に勤めていたときに、“自分が楽しんでいるか”ということを問いかけました。自分が色々やりたいと思っていることがあっても、なかなか意見が通らず我慢しなければいけないことがある。言ってみれば、自分の心をお金のために引き換えにしていたんですね。どちらがよいのか考えたときに、自分はいつ死ぬかわからないし、お金も死んだら使えないと気づき、だったらやりたいこと自由にできる環境に行った方がよいなと思って起業を決意しました。起業をするのは大変そうだなとも思いましたが、心に不満がある状態はそれはそれで苦労しているわけですから。結局、自分を信頼するかどうかってことですよね」

「就職活動をするということは、自分で食べていくのではなく、誰かの仕組みで食べていくということです。インターネットの力によって個人が本当に自由を獲得できる時代が来ようとしているのに、もっともパワーのある若い人間が過去の仕組みに入っていくというのは、自分を信頼できないからですよね。自分よりも会社の方が信頼できると考えている証です」

世の中の仕組みを知り、時代の変化を読み取る

和田「起業された今、佐渡島さんがやりたいと思っていることはどのようなことなのでしょうか」

佐渡島「やりたいことは、どう変化していくかわからないこの時代を楽しむことです。明治維新のときは明治の志士たちが制度を作ったけれど、現在では民間の成功した人たちがインターネットを使って社会の構造を変えようとしています。そこに対して、今の時代であれば、自分の考えを言えるかもしれない。そんな変革の時代はいつまで続くかわからなくて、その時代が終わってしまえばまた新たに固定化したルールの中で社会が積みあがっていくわけです。明治維新が起きようとしていることを理解しながら、今から江戸幕府に勤めようという人はいないでしょう。就職するという選択が過去の仕組みに入ることだというのはそういうことです。そもそも大学自体が、国が望んだ社会の仕組みですから、学生はすでに社会の仕組みに入ってしまっている。そのことが意識できるかどうか、それが大切です」

和田「この世の中を楽しみたいとのことですが、ますます自由になってきているこの世界で、佐渡島さんはどういった形でそこに切り込んでいきたいと思っていらっしゃいますか」

佐渡島「僕はずっと作家と一緒に仕事をしてきましたが、先ほども述べたように、今のままでは作品を作る作家ではなく、インターネット上でビジネスの仕組みを作った人たちにすべての利益が還元される形になってしまう可能性があります。ですから僕は、作家にきちんと利益が還元され、安心して作品を作ることができるような環境を、ひいては自分が好きな作品を創作できる環境を生み出したいという想いが強いですね」

「インターネットはきっと、今後ますます現実と結びついたものになってきますが、学生はこうした事例のような、今世の中でどのようなことが起ころうとしているかについての知識が少ないかもしれないですね。だからインターネット世代だと呼ばれていても、インターネットの本質を理解していない可能性がある」

「例えば、郊外にショッピングモールができるようになった最初のきっかけはなんでしょうか―僕は車の発明だと思っています。車がないと郊外のショッピングモールには行けませんから、交通網の整備と郊外のショッピングモールというのは密接に関わっています。だけど、車の発明からショッピングモールの出現までは50~60年くらいと時間がかかっているので、その因果関係に多くの人は気づくことができません。しかし、車が発明されたときにすでにドミノは倒されていて、時代を超えて変化を起こしているのです。他にも電話の発明など、時代のところどころに人間の生活や思考を変えるドミノが音も立てずに倒れたりしているわけです。今の時代においては、まさにインターネットというドミノによって何がどのように変わっていくのかを想像できるかどうかが非常に大切です」

佐渡島さん2

 世の中のイメージを変えるような作品を

和田「編集者として、人を見る際にどのようなことを意識していらっしゃいますか」

佐渡島「これも同じことで、ドミノがどのように倒れるかを考えるんです。人を見たときに、その人の今の状態と、ドミノが倒れて成長していく先のゴールを見るんですよ。そのゴールを意識したときに、そこにたどり着くには途中で何が起きなきゃいけないかということを考えます」

和田「編集者は要所要所のドミノを倒してあげるということですか」

佐渡島「いや、ゴールを教えてあげるということです。このままいけばゴールはここだと。道はいくつかあるけど、君はここまでいくよ、君はこういう作家になるよ、と」

和田「なるほど。しかしそれは一方で、傍から見たときにその人の未来を決めこむ、型にはめこむということにはなりませんか」

佐渡島「その可能性はあるでしょうね。でも人はみんな、人と影響を受け合いながら生きているわけだから、そこは編集者として覚悟を決めて責任を持つ。責任を持つとは、予想と違った方向に進んでしまったときもサポートするということです。自分を信じるからこそできることでもあります」

和田「最後に、今後どのような作家を育てていきたいといった展望はございますか」

佐渡島「世の中のイメージを変えるような作品を作っていきたいですね。例えば、『ドラゴン桜』が出る前の時代では、東大生が東大を名乗るのは少し恥ずかしいという雰囲気が世間的にあったんですよ。“一応東大です”とか、みんな卑下して使っていた。だけど『ドラゴン桜』が出た後に、東大がブランドとして再発見されて、恥ずかしくなく東大という名前を出せるようになった。世間に変化を与えることができたと思うし、それは価値あることだったなと思っています」

 

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インベスターZ (4)を読む

(記事作成:和田 有紀子   記事編集: 和田有紀子

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