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「慰安婦」問題は解決するのか?

記事作成: 西田 更良   記事編集: 西田 更良 | Global |2016.01.21

日本外交の2015年は、12月28日、慰安婦問題についての日韓の「歴史的」合意で幕を閉じました。これによって慰安婦問題は「最終的かつ不可逆的」に解決されたと宣言されましたが、早くも韓国の支援団体や学生が抗議運動を起こしています。この合意のどこが「歴史的」なのか、合意が双方で履行される際に何が問題となるのか。この協議の成功により、従軍慰安婦問題が解決に向かうのか。同じく最終的な妥結を目して設立されたアジア女性基金の失敗を軸に、今後の見通しを立ててみます。

慰安婦問題はいつどのように問題化されたの?

慰安婦問題がなぜ戦後しばらくして急に浮上してきたか、疑問に思う人も多いのではないでしょうか。きっかけとして韓国の民主化と、世界的なフェミニズムの盛り上がりが挙げられます。80年代終わりの韓国の民主化は、それまでの軍事政権下行われてきた政策が見直される契機となりました。慰安婦問題に対して日本政府は1965年の日韓合意の際に、国家間賠償、そして個人賠償の問題は解決済みであるとし、それまでは韓国政府もこの立場を追従していたのでした。また、上野千鶴子(2012)は、韓国国民の意識のパラダイム転換を指摘しています。慰安婦であったことは家族の恥、自らの恥であるという考えの中、多くの被害女性は戦後故郷に帰らず沈黙を貫いていました。そのような中、「恥ずべきは元「慰安婦」ではない」つまり、被害者の方ではなく、加害者の方に責任があるという考え方が徐々に一般化してきた(p.102)ことが、元慰安婦の方が声をあげる素地となったのです。そして、日本政府が慰安婦問題への不関与を表明したことに抗して1990年に、韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)が設立されました。初めて実名での証言者が現れたのは、この挺対協の呼びかけに応じての事でした。

時々、日本人の元慰安婦は何も文句を言っていないのに、なぜ被害を泣き泣き訴える韓国の人に賠償しないといけないのか、という議論がありますが、ここには、日本社会にいまだに現存する「娼婦差別意識」のようなものによって、日本人の元慰安婦が沈黙を守らざるを得ない状況の存在を無視してしまっている事実を見て取ることができるでしょう。

アジア女性基金はなぜ失敗したの?

日本政府は韓国の世論の高まりに対して、何も行動しなかったわけではありません。真相解明の調査を数度にわたって行い、その結果を踏まえ、財団法人女性のためのアジア平和国民基金(アジア女性基金)が、慰安婦問題の妥結に向けて設立されました。その活動は2007年に終了し、現在はその活動に関するデジタル記念館が公開されています。[1]

その設立の経緯について、記念館では

「政府は、先の大戦にかかわる賠償及び財産、並びに、請求権の問題は、サンフランシスコ平和条約、およびその他の関連する2国間条約などにのっとって対応してきたとの方針を採ってきました。そうである以上、新たに国家として個人補償を行うことはできないという立場でした。これに対して、与党の中では個人補償を行うべきだという考えが強く主張されました。意見の対立は、問題の解決に早急にあたるという観点から調整され、1994年(平成6年)12月7日、この問題での「第一次報告」がとりまとめられました。… 政府は、この「報告」を受けて、「慰安婦」問題に関して道義的責任を認め、政府と国民が協力して、「基金」を設立し、元「慰安婦」の方々に対する全国民的な償いの気持ちをあらわす事業と、女性をめぐる今日的な問題の解決のための事業を推進することを決定しました。」2]

としています。個人補償を認めること、つまり日韓合意を覆すことの是非が政治的に解決しないまま、ある種の妥協案として成立したのでした。そのため、政府が間接的に資金を提供し、国民から寄付を募り、首相が「お詫びの手紙」を送るという形になりました。

ここで批判されたことは、まず支払われた「償い金」はあくまでも国民によるものであって、政府の賠償金とは異なることを日本政府が強調したことでした。挺対協をはじめ、元慰安婦たちやその支援団体が求めていたのは、日本が国家として行った行為に対して公的に責任を認め、謝罪することであったにも関わらず、日本政府が「法的責任」はとらないという立場を崩さなかったからでした。韓国政府は当初この事業を歓迎する姿勢を示しますが、国内での反発が強まるとその姿勢を一変させることとなります。

日韓合意で何が決まったの?

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今回の日韓合意では、アジア女性基金の反省は十分に踏まえられているものとなっているのでしょうか。失敗を防ぐために様々な策が講じられているのは事実です。決まったことは主に下記の5点です。

・韓国政府が設置する財団に日本政府が10億円を拠出。元慰安婦の支援・尊厳回復・心の癒しのための活動に使用される

韓国政府が財団設立にかかわり、日本政府が全面的に資金を提供することで、アジア女性基金と異なる正統性をアピールするという意図があったと考えられます。しかし、元慰安婦の方々は経済的な援助は以前から受けており、求めているのはお金ではなく、法的な責任を日本政府が認めることだという声が上がっていることも事実です。

・慰安婦問題は当時の軍の関与があり、日本政府は責任を認める。安倍首相が内閣総理大臣として改めて、心からおわびと反省の気持ちを表明

政府の「責任」と表記することで、「法的責任」を求める韓国世論、そして「法的責任」は解決済みだとする日本政府の立場双方に配慮したものとなっています。また、「法的責任」を認めることを避けることで、強制徴用者の家族に対してなど元慰安婦以外からの賠償要求を抑える目的があります。

・双方は国連など国際社会で互いの非難・批判を控える

・最終的かつ不可逆的な合意とする

日本政府としては、韓国政府によってこの問題が何度も「蒸し返し」されたことを踏まえ、今後そのようなことが無いことが確約される文言を入れることが急務でした。

・日本大使館前の少女像について韓国政府は「関連団体との協議を行うなど、適切に解決されるよう努力する」

挺対協は2011年に、日本大使館前の抗議デモの1000回目を記念し、日本政府に謝罪を求めて大使館前に慰安婦を象徴する少女像を設置しました。その周辺で抗議活動などが行われてきました。日本政府は「外交関係に関するウィーン条約」に反するとし、撤去を求めてきていました。これによって韓国政府は撤去のための努力をしなければならなくなりましたが、この「努力」実際に撤去されるまでなのか、話し合いの場を設ければよいのかは、それぞれの政府がいか様にも解釈できるものとなっています。

今後双方に求められること

日本政府に求められていることは、次々と亡くなってしまっている元慰安婦の方々の要望を聞き、寄り添った形で支援を行い、誠実な対応を見せることではないでしょうか。慰安婦問題を何度も浮上してくる「問題」としてとらえず、生身の人間が実際に関わった事実だという事を認識することが必要です。また、政治的努力によって関係改善ムードが少なからず実現しつつある中で、首相や政府による、韓国の反日世論を刺激してしまうような行動もあってはならないと考えられます。28日の合意のまさにその日、首相夫人はFacebookに靖国神社参拝を報告していましたが、首相自身については個人的な心情は抜きにした行動が求められるでしょう。

韓国政府は国内の支援団体などから当事者不在の妥結を「トップダウン」などと強く批判されており、これから合意を履行するうえで難しいかじ取りが要求されます。野党も恰好の攻撃材料とする動きを見せている中で、この合意の政治・経済的な意義、そして合意が未来志向の関係実現のため必須であることを今後も強調していかなければなりません。また、慰安婦問題が韓国ナショナリズムの象徴的存在となり、国民世論を強く動かす存在として必要以上に重要視されているのも事実であり、これに加担することで世論の支持を得る行動は慰安婦問題の解決に決してつながりえないはずです。少女像の撤去についても、支援団体の言い分を踏まえたうえで慎重に行動していく必要があるでしょう。


[1] http://www.awf.or.jp/index.html

[2]慰安婦問題とアジア女性基金デジタル記念館「アジア女性基金の誕生と事業の基本性格」 http://www.awf.or.jp/2/foundation.html

参考資料

外務省「日韓外相会談」http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001667.html
慰安婦問題アジア女性基金デジタル記念館http://www.awf.or.jp/index.html
上野千鶴子『ナショナリズムとジェンダー』2012年、岩波書店

 

編集後記

合意が実現したこと自体は喜ばしいものだと思います。しかし、日本政府は履行には少女像の撤去を前提とし、韓国政府も日本側の真摯な対応を求めているため、実際的な効果が上がるためには政府・国民両方の相互理解への努力が必要なのではないでしょうか。

また、外国を批判することで国内の支持を取り付けることは、政府にとって国内の問題がら国民の目をそらす手っ取り早い方法です。そのように政府が行動しないように、私たち自身が政府のあり方を問うことも大切だと思います。

(記事作成:西田 更良   記事編集: 西田 更良 )

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