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日本は遅れている!?親と暮らせない子どもの現状

記事作成: 高橋 健太   記事編集: 高橋 健太 | Future |2016.01.24

日本は技術大国でありサービスや製品の質もよく世界でもトップクラスの先進国である、などともてはやされる一方で、女性の社会進出などの特にダイバーシティの分野で非常に遅れていると指摘されています。その他にも、子どもの人権に関して日本は非常に遅れているのをご存知でしょうか。

親が育てられない子どもはどこへ行くのか?

自分を育ててくれる親がいなかったら、などと考えたことはあるでしょうか。

毎朝起こしてくれて、行ってらっしゃいを言ってくれるお母さん、たまに怒るし恐いけれど一緒にキャッチボールをしてくれるお父さん、正月には帰省すると出迎えてくれる家族…そんなありふれた家族の光景を子ども時代に経験できない子どもたちが、日本には大勢います。

2011年に起きた東日本大震災では200名以上の子どもたちが親を失い、孤児となりました。

その大半は、親族に引き取られ暮らすことになったようですが、親族が引き取ることができない子どもたちは施設に預けられました。 そのように親が災害で亡くなってしまったり病気で亡くなってしまったりして、孤児になってしまった子もいる一方で、親が子どもに虐待をしてしまうために、親から子どもを引き離さなければないケースや、赤ちゃんのうちから親が育児放棄をしてしまうケースもあり、施設に預けられる子どもが後を絶ちません。

親が育てられない子どもが預けられるのはどんな施設か知っているでしょうか。

本来、社会的養護(保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと。(厚生労働省より))には要保護児童(保護者に監護させることが不適当であると認められる児童、または保護者のない児童)を乳児院や児童養護施設などの施設で育てる施設養護と、家族の中で育てる家庭養護という2つの方法があります。

施設養護において、親と暮らせない子どもが預けられる施設には主に二種類あります。

1.乳児院・・・・2歳未満の乳幼児が預けられる児童福祉施設
2.児童養護施設・・・・2歳から18歳くらいまでの子どもたちが生活する児童福祉施設

虐待から逃れるため、孤独から逃れるために子どもたちはこれらの施設に預けられます。ですが、本当にそこは子どもの成長にとって適切な場所なのでしょうか?

ほとんどの人は、虐待から逃れ施設に預けられた子供の話を聞くと、
「虐待されていたのはかわいそうだったけど、今はちゃんと保護されたんだね、よかったね」と、そこで思考がストップします。施設に預けられた子どものことはあまり考えません。

つい最近、12月10日に厚生労働省から公表された平成26年度福祉行政報告例では、約2,900人が乳児院に預けられ、約27,000人が児童養護施設に預けられていると報告されました。実に約30,000人もの子どもが現在でも施設に預けられています。 施設に預けられた子供はどのような環境で暮らし、育っていくのでしょうか。

 

世界のスタンダードから遅れる日本

親と暮らすことができない子どもは施設で暮らす、日本ではそれが当たり前の流れのように子供は施設へと預けられますが、海外諸国を見ると少し事情は違うようです。

先ほど述べたように、社会的養護には施設養護と家庭養護の2種類があります。

家庭養護では、子どもは里親や養親により育てられることになります。

里親とは、実親と一緒に暮らせない子どもたちを実親と暮らせるようになるまで一時的に家庭で保護する人のことで、里親制度は、児童福祉法に基づき里親となることを希望する方に子どもの養育をお願いする制度です。

里親制度では、養子縁組制度とは違い、里子の戸籍は実親の戸籍に入ったままとなりますが、里親として育ち、のちに養子縁組を結ぶ家庭もあるそうです。 海外諸国の里親委託率(要保護児童のうち里親に委託されている児童の割合)はどうなっているのか、見てみましょう。 n160124-1(出典:Human Rights Watch)

日本において里親委託率は2011年3月時点でたった12%と、海外諸国にくらべ大きく水をあけられています。

厚生労働省が2015年11月末に出したプレスリリースによれば、2015年4月時点で日本全国の里親委託率は15.8%と、多少の伸びはあるものの海外諸国には遠く及ばない結果となっています。

国連総会で採択され、日本も批准している子どもの権利条約にも、

“…児童が、その人格の完全なかつ調和のとれた発達のため、家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべきである…”

とあり、また施設養護に関しては

“必要な場合には児童の監護のための適当な施設への収容を含むことができる。”

とされています。
つまり、施設養護は家庭養護で保護しきれない場合にのみ、受け皿として機能するべきであると言っているのです。こういった日本の施設養護偏重は国連からも懸念の勧告を受けています。

なぜ、日本では家庭的養護の割合が低いのか。
それ以前に、そもそも施設養護の何が問題なのでしょうか。

乳児院、児童養護施設の問題点:児童養護施設で暮らしていた子どもに聞いた施設の生活とは

2014年に話題になった児童養護施設を題材にしたドラマ「明日、ママがいない」 皆さんの中にもご覧になられていた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

n160124

僕は残念ながら見ていなかったのですが、児童養護施設内部の描写や児童養護施設で暮らす子ども達の描写について、行き過ぎた表現があったとして批判が起こりました。

施設内の状況は、外からはとても見えにくく、かつては施設内での虐待が蔓延していたそうですが、昔に比べるとずいぶんよくはなってきているそうです。

とはいえ、社会的養護に携わる人の話では、まだ施設内での問題は多いと言います。

施設養護の問題点1:施設内の暴力

昔に比べ、だいぶ良くなってきているとはいうものの、施設の中で暴力が振るわれるというケースは未だ存在するようです。

「先生が、小さい子に対して手を上げることがあって怖かった。子ども同士で暴力が振るわれることはしょっちゅうで、よく年上の人から暴力を受けました。」

現在家庭養護のもとでくらすAさんは上級生からいじめを受けたこともあるそうです。

Aさん「心休まる場所がありませんでした」

虐待や孤独から逃れ、施設に入ったはずなのに、そこでもまた暴力にさらされる。施設の中では、年齢差のある子どもが一緒の部屋で暮らしていることがあり、そこで上級生に暴力を振るわれることもあるのです。

ひどいところだと、上級生が下級生に自分の性器を舐めさせることもあります。もちろん施設によりますが、いわゆるその“性器舐め”をさせる行為は社会的養護に係わる人の中ではわりとよく知られた問題なのです。

施設養護の問題点2:プライバシーのなさ

施設の中で、子どもたちが暮らしている環境は、思春期の子どもにとって決して良いとは言えません。
ある児童養護施設では、子どものプライベートなスペースは自分のベッドの上のみ。ベッドは一つの部屋に何台も並べられ、その間の仕切りはカーテン一枚だけ、などということもあるそうです。

一人になりたいときに、一人になれない。また、暴力を振るわれたときに安全地帯がないということが、心休まる場所がないということにつながっているのでしょう。

施設養護の問題点3:施設の職員は毎日ずっと一緒にいてくれるわけではないということ

「一番大きい問題は、施設の職員は親と違ってずっと一緒に暮らせるわけではないということ。施設の中では、施設の職員が寝泊まりしてなるべく長い時間子どもたちと一緒にいるようにと頑張っているところもあるようですが、それでもやはりそれが仕事である以上、普通の親子関係とは違うものになってしまいます。」

里親として里子達を育てているBさんはそう言います。

ルーマニアで行われた研究では、乳児院で育てられた子どもは、家庭で育てられた子どもに比べ、知能の発達の面で遅れていたことが分かっています。

特に乳幼児の時期は非常に親子のコミュニケーションが重要で、親と子が一対一で向き合える家庭と異なり、一対多数で向き合わなければならない乳児院ではコミュニケーションが不足し、言語の能力の向上に問題が発生すると指摘されています。 家庭で親の愛情を受けながら育つことは、思っている以上に重要なことなのかもしれません。

施設養護は悪か?

施設で育った子どもたちに質問してみたところ、産まれた時から乳児院で育ち、幼いころに里親に引き取られたCさんは、

「あまり嫌だったことはなかったです。自分もやんちゃだったので、楽しかった」 と言っています。
「特にいじめはなかったし、嫌だったという思い出はあまりありません」
同じく現在里親のもとで生活しているDさんも、そう語りました。

施設の環境として、プライバシーが少なく、大勢が暮らす場所であるためいさかいが起きやすいという事実はあるものの、居心地が悪いと感じなかった子どもたちもいます。

施設内での暴力が嫌だったと語ったAさんも、
「施設対抗のサッカー大会とか、マラソンの大会とかがあってそれは楽しかったです。」
と語り、施設の中でも、できる限り子どもたちに居心地のよい環境を、という試みがなされている様子がうかがえます。

一方で、里親のもとに来て良かったか、という質問をしてみると、みんな口をそろえて良かった、と言います。
「施設から出て、ここに来たことでいろんな人に会えたし、(里親は)うるさいけど良いこともあります(笑)」とCさん。

Dさんも、「施設にいたころより、自由にいろんなことができる。自分で買えるものも増えました。」と言っています。

里親「施設の人々も努力をされていますが、やはり施設では学べないことがあると思うんです。施設内で暴力が振るわれていたとしても、全部を見張ることなどできません。」

施設自体が問題なのではなく、まさしく施設養護偏重の日本の現状が問題なのでしょう。

n160124-2

なぜ日本は遅れているのか?

国連に懸念を表明されるほど、社会的養護が遅れている日本ですが、なぜ現状進んでいないのでしょうか。

現状里親として登録されている方にも、「登録しているのに全然子どもが来ない」という声が多く、登録里親のうち里子が委託されている里親の割合は36.6%と(平成26年福祉行政報告例より)高いとは言えません。

里親の数が少ないために委託できない、という理由ではなさそうです。日本の家庭養護が遅れている理由には以下の理由が考えられます。

①日本は実親の親権が非常に強く、実親が子どもを手放したがらない

施設に預ける子どもを里親のもとで養育しようとしても、実親が拒否するためにできない、というケースもままあるそうです。
里親に育てられると、育ちの親に懐いてしまい、自身の元から離れてしまうのでは、と懸念する親がいるのです。

海外では一定期間養育できなかった親などは親権が剥奪されるなどの制度がありますが、日本ではまだそのような制度はないため、実親の意見が非常に通りやすいのです。

愛情があって毎週施設に通っています、というような親であれば良いのですが、全く施設に来ない親がそう言ってくるケースもあるそうで、実親の親権の剥奪ということも場合によっては考える必要があるのではないでしょうか。

②児童相談所の業務内容が多く、里親と子どものマッチングに手が回らない

里親「児童相談所は要保護児童を施設に送りたがる傾向があります。里親はその後の経過観察も難しく手間がかかるため、やりたくないのです。それは児童相談所の業務が多く、そこまで手が回らないという状況に問題があるのだと思います。」

児童相談所の職員数不足と専門性の欠如も指摘されてもいます。里親とのマッチングをする児童相談所の職員に専門性がないために、よく知った施設へ優先して入れることにつながっています。

また、里親制度が絶対的に良いかというと、必ずしもそうではないという現実もあります。 里親とうまくいかず、施設に戻ることになった子どもや、里親に虐待されるなど負の面もあるのです。

里親の中にも、里子となる子を選り好みし、受け入れを拒否する例もあります。 里親になるための教育も十分とはいえず、里親として登録されている方にも不安があるそうで、研修制度の拡充が求められています。

しかし、やはり環境として家庭養護の方が優れていると言わざるを得ないでしょう。 家庭養護を推進するためには、子どもの意見を重視し、里親とのマッチングのミスをなくしていく必要があると言えます。

今後の日本における家族のありかた

日本で近年、家族の在り方について様々な議論が巻き起こっています。

去年11月には性的マイノリティーの人々に対し、渋谷区・世田谷区において同性パートナーシップ条例が発令され、同区では同性同士のパートナーであっても結婚と同等の関係と認められることになりました。

また、夫婦別姓問題においても、最高裁で「夫婦同姓を定めた民法は合憲」であるという判決がなされました。日本において現在夫婦、そして家族の在り方が問われていると言えるでしょう。

社会的養護の分野においては、家庭養護や養子縁組を推進していこうという動きが加速しつつあります。現在、政府も児童福祉法改正案を提出する予定で動いています。家庭養護・養子縁組をより推進していけるような案になることが期待されます。

家族の定義をより柔軟なものにすること。

制度面で様々な課題はあるかもしれませんが、日本はそれを推進していくべきではないでしょうか。 __________________________________________________________________________

参考資料

平成26年度福祉行政報告例
厚生労働省プレスリリース
養子縁組中心の児童福祉実現を 日本財団会長・笹川陽平
Human Rights Watch 夢が持てない
児童虐待等の子どもの被害、及び子どもの問題行動の予防・介入・ケアに関する研究

編集後記

記事を書くにあたって、関東圏に住む里親の方のお宅にお邪魔させていただきました。

里子の子どもたちともお話をさせていただきましたが、里親の方の温かさもあってか、もうすでにひとつの家族となり、施設での出来事もしっかりと向き合い話せるようになっていました。

里親制度にも問題はありますが、今後このような温かい里親・養親の方が増え、より多くの子どもが家庭で愛情を受けることができるようにと願っています。

(記事作成:高橋 健太   記事編集: 高橋 健太 )

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